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【黒澤善行の永田町ウォッチ】地方創生2法案が審議入り
【10月15日、さくらフィナンシャルニュース=東京】
■地方創生2法案が審議入り
今週14日の衆院本会議で、人口減少抑制や東京一極集中の是正に向けた地方創生の基本理念と、平成32年までに取り組む具体策を定めた「総合戦略」を年内に策定することなどについて定めた「まち・ひと・しごと法案」、地域支援をめぐる各省への申請窓口を一元化するとともに活性化に取り組む自治体を支援するための「地域再生法改正案」の趣旨説明および質疑が行われた。
その後に開かれた衆議院地方創生に関する特別委員会でも同2法案が付託され、審議入りとなった。
地方創生2法案の審議日程をめぐっては、法案審議を集中的に行って早期に成立させたい与党側が、定例日に拘束されない特別委員会設置を9日の衆議院本会議で議決し、趣旨説明と質疑を同日中に行うよう提案していた。しかし、野党側は、特別委員会設置そのものが必要なのかと難色を示した。
衆議院議院運営委員会理事会で協議を重ねた結果、9日の衆議院本会議では特別委員会設置を議決することとし、地方創生2法案の趣旨説明と質疑を14日の衆議院本会議で行うこととなった。
これにより、9日の衆議院本会議で特別委員会設置が賛成多数により決定した。その後の特別委員会では、同委員長に元総務大臣の鳩山邦夫衆議院議員(自民党)を互選で選出した。
14日の衆議院本会議では、安倍総理出席のうえ、石破地方創生担当大臣が趣旨説明を行った。石破大臣は「各府省の縦割りを断固排除し、政策効果の検証がされていない予算措置などバラマキ型の対応を排除する」と強調するとともに、「市町村をはじめとする使う側のニーズにあった施策を整備していく」と述べた。
また、自治体に策定を求める5カ年計画「総合戦略」について、来年度中を期限とする旨を表明し、自治体の取り組みを支援する目的で、若手の国家公務員らを市町村の補佐役として派遣するしくみも検討するとした。
その後の質疑では、野党側が予算のバラマキや歳出増加への懸念などを相次いで追及した。これに対し、安倍総理は、政策目標の設定、事業重複の徹底排除、政策効果の厳格な検証などを実施する意向を示して、「地方の陳情に応えるバラマキ型の投資は断じて行わない」点を強調した。
■政府、地方創生について論点整理
人口減少対策や地域活性化など、地方創生の具体策づくりに向けては、10日、政府の「まち・ひと・しごと創生本部」(本部長:安倍総理)が会合を開催した。本部会合では、年内にも策定する、50年後を見据えて1億人程度の人口を維持するための「長期ビジョン」と、今後5年間の施策となる「総合戦略」の論点が提示された。
長期ビジョンでは、推計で2008年をピークに人口減少し続けており、今後、経済規模の縮小や国民生活の水準低下、東京圏への人口流入などが懸念されることや、出生率の早期改善が必要との認識が示された。そのうえで、基本方向を「将来にわたって活力ある日本社会の維持」とし、若い世代の就労・結婚・子育ての希望の実現などの中長期的な政策目標を提示することや、地方の自主的取り組みを国が支援する方針などを明示した。
総合戦略では、こうした長期ビジョンを踏まえ、政策目標を設定して、省庁間の縦割り排除、厳格な政策効果の検証を実施することを基本姿勢として掲げた。省庁の縦割りを排除して、地方独自の取り組みを効果的に支援していくため、国の対応窓口を一元化する「ワンストップ型」で展開する方針だ。
政策分野ごとの取り組み例として、地方移住希望者や若い世代の結婚や出産・子育てなどへの支援、地域産業基盤の強化、育児休業の拡充などの働き方改革、自治体の広域連携推進などに取り組むことが列挙されている。
安倍総理は、「地方のやる気を引き出す内容としてほしい。東京中心の経済政策とは異なる取り組みが必要だ」と、本社機能移転も含む企業の地方拠点強化や、地域活性化に向けた人材確保などについて検討するよう指示した。また、長期ビジョンと総合戦略の骨子を、来月に決定する意向も示した。そのうえで、「当面の地域活性化対策を年内の予算編成と合わせてとりまとめ、来年は中長期的な構造問題に取り組む」との決意を示した。
創生本部は、自治体や有識者からの意見を踏まえ、11月中に長期ビジョン・総合戦略の骨子を策定する。地方創生の具体策は、(1)優遇税制、(2)交付金、(3)補助金、(4)規制改革を柱に検討していくようだ。
伊藤大臣補佐官を中心とする基本政策検討チームは、これまでの国の地域活性化策を検証して問題点を検証するべく、自治体や各府省へのヒアリングをテーマ別に7日間実施し、10日に終了した。
自治体からは、本社機能を地方に移転した企業に対する法人税引き下げなどの地方向けの優遇税制、人口減少対策で地方が自由に使える交付金創設といった財源をめぐる要望が相次いだ。各府省は、来年度の予算概算要求に盛り込んだ事業などについての説明を行った。
ただ、事業の重複や縦割り行政の実態、地方の拠点づくりにおける一体感の欠如などが明らかになったものの、各施策の明確な目標設定がないために、検討チームが当初めざした失敗事例を含む過去の関連事業の検証までには至っておらず、従来の延長線上にない政策の策定、厳格な予算査定ができるかは、いまのところ未知数だ。
■女性活躍推進法案、今月中にも提出
10日、女性活躍施策を検討する司令塔「すべての女性が輝く社会づくり本部」(本部長:安倍総理)の初会合が開催された。
安倍総理は「指導的立場で活躍する女性を育てることは大変重要だ」「女性が輝く社会をつくることは、政権発足以来の最重要課題の1つだ。子育ての不安解消、母子家庭の生活の安定、非正規を含めた働く女性の処遇改善など、すべての女性の活躍推進のため、施策の充実の推進に取り組んでほしい」と指示した。
初会合では、女性が働きやすい社会づくりに向けた雇用・職場環境の改善、出産・育児支援の強化など、来春までに実施する政策を集めた「すべての女性が輝く政策パッケージ」を決定した。
政策パッケージでは、女性の職業生活における活躍の推進に関する法律案(女性活躍推進法案)の臨時国会への提出、非正規雇用労働者の処遇改善を促すプランの年内策定や、長時間労働を是正する法案を来年の通常国会への提出が明記されたほか、女性登用に積極的な企業への補助金付与や公共調達での優遇措置、子育て中の女性の再就職支援、妊娠・出産支援を後押し策、母子家庭向けの相談窓口の設置、ストーカー対策の強化、性犯罪被害者への支援などが盛り込まれた。
政策パッケージのうち、臨時国会に提出予定の女性活躍推進法案については、女性登用の取り組み加速を企業などに促すことを目的に、従業員301人以上の大企業に採用者や管理職に占める女性割合、勤続年数の男女差などを把握したうえで、各企業の自主判断で数値目標を設定し行動計画とともに公表するよう義務付けることとなった。従業員300人以下の企業は義務とせず、努力を求めるかたちとなった。
同法案は、2016年度から25年度までの時限立法で、施行から3年後に、必要に応じて内容を見直すことも盛り込まれた。政府は、今月中にも同法案を提出し、臨時国会中に成立させたい考えだ。
■「地方創生」論戦に注目
衆参両院の本会議で行われた安倍総理の所信表明演説に対する代表質問、衆参両院の予算委員会での基本的質疑では、安倍総理や関係閣僚が「地方創生」「女性活躍」の基本理念の抽象的説明などに終始したこともあり、野党側は、アベノミクス批判や看板政策の問題点を追及するも議論があまり深まらず、攻めあぐねてきた面があった。民主党や維新の党などは、松島法務大臣や江渡防衛大臣、山谷国家公安委員長ら新閣僚の資質問題に照準をあてて追及し始めている。
安倍総理が看板政策として掲げる「地方創生」をめぐる国会論戦がスタートしている。また、もう一つの「女性活躍推進法案」が、今月中にも閣議決定のうえ、国会提出される予定だ。これら政策をめぐる国会論戦がどこまで深まっていくのだろうか。まずは、特別委員会での審議動向に注目しておきたい。【了】
黒澤善行(くろさわよしゆき)/愛知県春日井市生まれ。立命館大学政策科学部卒業、立命館大学政策科学研究科博士前期課程修了。毎日新聞社「週刊エコノミスト」記者、衆議院議員政策スタッフ、シンクタンク2005・日本(自民党系)研究員などを経て、従来の霞が関の機能を代替できる政策コンサル産業の成立を目指す株式会社政策工房の主任研究員に就任。主著に『できる総理大臣のつくり方』(春日出版、共編著)、『ニッポンの変え方おしえます―はじめての立法レッスン』(春秋社)がある。政策工房Public Policy Review(http://seisaku-koubou.blog.jp)より、著者の許可を得て転載
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※この記事はSakura Financial Newsより提供を受けて配信しています。
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