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【コラム 山口利昭】不正の発見は業務処理統制から-企業不正の実態調査
【10月3日、さくらフィナンシャルニュース=東京】
いつもお世話になっているKPMG-FASさんより、「日本企業の不正に関する実態調査 2014版」をいただきました。KPMGさんは、これまでにも2006年から、過去3回の不正実態調査を行ってこられましたが、4回目である今回は2011年1月から2013年12月まで、計3年間の不正事件に関する開示情報148事案を分析したもので、非常に有用性の高い調査結果を発表されています。なお開示情報からの分析、ということなので、やはり分析される事案は、会計不正事件か資産流用事件が中心になっています。
様々な視点からの分析が行われていますが、やはり私の最大の関心は、「不正の発覚経路」です。その結果はといいますと、意外にも内部通報、内部告発による情報提供よりも、業務処理統制による発覚が一番多いという結果が出ています。ただし経営者不正に限っていえば内部通報や内部告発による発覚がやはり圧倒的に多く、従業員不正については逆に業務処理統制による発覚が多い・・・という結果が出ています。やはり経営者が関与する会計不正事案などは、内部統制を無効化させてしまうということで、経営者不正を内部統制で防止できるかといえば限界がある、ということでしょうか。
ちなみに業務処理統制による発覚の経緯としては、(1)売上債権の滞留調査によるものが最も多く、次いで(2)仕入れ・原価計算分析や親会社のモニタリング、(3)人事異動や主体的関与者の体調不良などによる長期休暇といった担当者の交代が多いそうです。不正発見のための内部統制システムの体制作りといえば、職務分掌、ダブルチェック、ローテーション制度と言われていますので、こういった結果をみますと、やはり基本原則をどこまで徹底できるか、ということが早期発見のための要諦ではないかと思われます。
もうひとつ意外なのが、不正発覚と株価の動向です。会計不正事件だけの特徴かもしれませんが、不正会計や資産横領事件が発覚した上場会社の株価は、発覚後、ほぼ85%ほどの価格に低落し、その後60日以降もその株価が従前どおりには回復していない、ということです。なるほど、会計不正事件については株価の低迷が長期間に及ぶ・・・ということがこの分析調査でよく理解できました。会計不正事件の発覚は、株価の急落をもたらすものとして、明確に意識したほうが良いと思われます。
外部者関与の不正事例の特徴、第三者委員会設置の比率など、個々の調査報告書などを読んで不正事件の傾向を勉強することはありますが、こうやって150件ほどの事例を詳細に分析する・・・ということは、なかなか個人では困難です。不正の早期発見のための施策を検討するためにも、このような実態調査の結果を活用することも必要ではないかと思います。【了】
山口利昭(やまぐちとしあき)/山口利昭法律事務所代表弁護士。大阪府立三国丘高校、大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(平成2年登録 司法修習所42期)。現在、株式会社ニッセンホールディングス、大東建託株式会社の社外取締役を務める。著書に『法の世界からみた会計監査 弁護士と会計士のわかりあえないミソを考える』 (同文館出版)がある。ブログ「ビジネス法務の部屋」(http://yamaguchi-law-office.way-nifty.com/weblog/)より、本人の許可を経て転載。
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※この記事はSakura Financial Newsより提供を受けて配信しています。
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