『いまどき真っ当』な投資家道(1)「カリスマファンドマネージャーが投資の知恵を授ける」

2014年8月27日 14:27

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記事提供元:さくらフィナンシャルニュース

【8月27日、さくらフィナンシャルニュース=東京】

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藤野英人/ふじの・ひでと
 ひふみ投信ファンドマネージャー。レオス・キャピタルワークス取締役・最高投資責任者(CIO)。野村投資顧問(現:野村アセットマネジメント)、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントなどを経て2003年レオス・キャピタルワークス創業に参加。?特に中小型株および成長株の運用経験が長く、23年で延べ5300社、 5700人以上の社長に取材し、ファンドマネージャーとして豊富な経験を持つ。東証アカデミーフェロー。明治大学ベンチャーファイナンス論講師(12年間)公益社団法人スクールエイドジャパン理事。著書に『5700人の社長と会ったカリスマファンドマネジャーが明かす 儲かる会社、つぶれる会社の法則』(ダイヤモンド社)などがある。
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■旅のはじめに出会ったのは、株式投資の伝道師

 カリスマ的な実績を持つファンドマネージャーとして著名な藤野氏は、コモンズ投信の渋沢健氏、セゾン投信の中野晴啓氏らと共に長期投資を応援する「草食投資隊」を結成し、東証と連携して全国キャラバンなどを展開中だ。投資家教育に力を注ぐ、「『いまどき真っ当』な株式投資」の伝道師のような存在でもある。

 筆者は藤野氏とは初対面ではない。かつて彼の著書「トップファンドマネージャーの明快投資戦略」や「スリッパの法則」といった本を読み、非常な感銘を受けた。5年前、ツイッターの「オフ会」にも参加したのがきっかけでお会いしている。これから筆者は様々な「キラリと光る」埋もれた中小企業を探す旅に出る。

 「旅」のはじめに会って、「知恵を授かるべき」人物は藤野氏しかいない。そう思った筆者は、東京・八重洲のレオス・キャピタルワークスを訪ねた。応接に通されしばらくすると、にこやかな笑顔で「やあ、こんにちは!」と藤野氏が登場した。(旅人・SFN特派記者 高山泰三)

■個人投資家と投資先企業とのより良い関係

高山 私がこれから連載する「『いまどき真っ当』な投資家道」は、個人投資家と投資先企業がより良い関係を築くための企画です。

 私が、藤野さんを最も評価している点は、ご主張が全くブレない点です。10年間一貫して、「株式投資とは単に株券を買うのではなくて、現実の生きた企業に投資をすることだ」、「成長する企業を見抜く最も重要なポイントは『社長を見る』ことにある」、と仰っている。

 また数ある著作の中では必ず、「お金とは何か」ということを深く考えさせる問いを読者に投げかけ続けています。例えば、近著「投資家が「お金」よりも大切にしていること」(海星社新書)は「お金とは何か」についての集大成的なものだと受け止めました。

藤野、そうですね。そう感じて読んでいただければ有り難いです。今回は、個人投資家が実践で役に立つ情報を教えて欲しいということですね?

高山 はい、まずは、「社長を見る」、「会社を見る」ポイントについて知りたいと考えています。

 現実問題としては、個人投資家はファンドマネージャー等と違い、社長本人と直接話をするチャンスはほとんどありません。大方は、株主総会に出席して壇上にいる姿を眺める程度です。

 直接の接点を持とうと試みても、IRの担当者と電話で話をするのがせいぜいです。会社訪問も個人投資家にはなかなかハードルが高い。

 では、社長や企業をもっと知るために個人投資家は具体的にどう行動したらよいのでしょうか。

藤野 まず「スリッパの法則」(PHP研究所)を書いた十数年前と今とで大きく違っているのはIT化の推進という点です。当時すでにIT化は始まってはいましたが、10年間で多大な進歩を遂げた。

 そこに注目してみましょう。

■HPがイケてる会社か?

 第1にホームページ(HP)をチェックしてください。それこそ、いまどき、「HPがイケていない会社はダメ」だと思います。経営者なら意識しなくてはいけない項目に、力点が置かれていない会社は儲かる気がしません。

 では、具体的にHPのどこに留意するかというと、透明性の部分です。

 社長や役員が顔を出して語っているかいないか----これは統計的にも優位にパフォーマンスが違いますし、その企業のメッセージが伝わっているかという点でも重要です。

 そして、社長のメッセージが総務の人間がどこかからか「コピペ」したような紋切り型つまらないものではなくて、経営者自らの言葉で語られたものかどうかも判断材料になります。

 次に、良い写真を使っているかどうか。

 社長の顔写真だけではなく、商品でも設備でも写真は重要です。HPのデザイン自体に凝るよりも、クオリティの高い写真を撮ることに注力した方が、その会社のことをより上手く伝えることが出来るはずです。

 そういう今の時代に必要な基本を理解しているかどうかはポイントです。

 それから、HPに社員の写真が出てくるかでも大分違うと思います。その会社が従業員を大切にしているかなど、社の姿勢は自然とHPに表れます。

 つまり、基本的な事柄はかなりの部分で会社を直接訪問しなくても、程度判るようになってきているということです。

高山 それなら、ごく普通の個人投資家も、すぐに実践出来る方法ですね。

■判断に難しい知識は要らない

藤野 今言ったような、会社が「イケてるかイケてないか」という判断は、実は、MBAの知識や証券分析の知識というよりもむしろ、普通の人間が持つ当たり前の常識や感覚の方が正しかったりする。

 ごく常識的な部分を「見ていない」投資家が案外多いのではないかと思います。

 HPに話を戻します。クリックして、ページの読み込み遅い会社は、私は論外だと思う。顧客や投資家の立場に立って考えることが出来ていない証左です。

 他にも、動画メッセージがあるかないかなど、多くの会社を「当たり前の観点」で比較してみたらどうでしょうか。

 これらのことを総合すると、HPがイケてなかった会社が、イケているようになる瞬間を見逃してはいけないということです。

 なぜなら、会社全体に大きな変化が起っている可能性を示すシグナルだからです。会社全体を変革する時には、必ずHPにも手を付けます。継続的にウォッチする必要はありますが、変化に目を向けるというのが投資の世界では欠かせない視点です。

■社長とは嘘つきである

高山 もうひとつ助言を得たいのは、「人物として経営者を見る」ことの難しさについてです。

 経営者に会えた場合、数字ではなく、感覚的な部分に目を向けすぎると、「社長に騙された」、「社長の人柄に惚れ込んだけど失敗した」、ということが起きやすいと思います。注意すべき点を教えてください。

藤野 大前提として、「社長とは嘘つきである」ということを忘れてはいけません。ただしそれは、悪いことでもなければ、イリーガルという意味でもありません。

 自分の会社を良く思って欲しい、自分をよく思って欲しいという強い思いからバイアスがかかるという意味です。特にビジネスを拡大したい時には、絶対に不利なことは言わない。良い部分を誇張して、悪い部分を過小評価します。

 でも、それは当たり前です。

 社長に限らず誰にでも同じではないでしょうか。就職する際や恋愛中に「自分を相手に良く見せたい」という気持ちは、常に誰にでもある。ですから、発信者の主観的なバイアスによって歪んでいる、社長の話はきれいに整理された嘘であることを冷静に認識した上で、情報収集すべきでしょう。

 もっとわかりやすく言うと、「論理学」の世界に近いかもしれません。

 例えば、人が3人いて、中には嘘つきと正直者が混ざっています。皆、帽子を被っていて、隣の帽子の色しか見えない。そういう状況で、お互いの帽子について「だれが嘘つきでだれが何色の帽子を被っているか」というコメントをします。それに近いものがあります。

高山 IRの情報でも、経営者の話でも、業界関係者の話でも、全ての人は少しずつ嘘を言い、少しずつ本当を言う。時にはデータですらそうなる。

 その中から真実らしきものを見抜いてゆくことが大切であるということですね。

藤野 ビジネスは基本的に騙されるのが当たり前だということです。私が思うに、大成功している経営者は極端に言えば大嘘つきに近いでしょう。むしろ、経営者は、そういう愛すべき生き物だと理解してあげることです。

 「群盲象を評す」という諺があります。

 象を手で触れてみて、お腹を触った人は壁だと言い、耳を触った人は団扇だと言い、尻尾を触った人はロープだと言うという。断片だけでは象だと判らない。

 投資もそうで、私たちが見ている情報は断片でしかなくて、断片の情報から全体のピースを埋めてゆく作業です。投資はそれこそが面白いのであって、そもそも、嘘をつかれたとか騙されたというのは未熟な議論でしょう。

 真実は誰にも判らないものです。

 投資家は様々な情報から確からしき「何か」を繋いでいく。そして真実らしきものを推測していく。それらを根気よく続けることが大切です。意識してみてください。

■ダメージが少ない金額ですぐに始めろ!

高山 株式投資というのは、非常にエキサイティングで知的な作業です。しかし、いざ始めるとなると、第一歩が踏み出せない方が多いような気がします。個人が株式投資を始めるには具体的にどのようにスタートしたらよいのでしょうか。

藤野:「すぐに始めろ」という言葉に尽きます。

 やられてもダメージが少ない金額で、3銘柄くらいから始めるといいと思います。そして、やりながら学ぶことです。今は10万円から出来ますし、すぐに全額スッたとしたら、「逆の意味の天才」なので、それはそれで意味のあることかもしれません(笑)。

 私は、先ずは本を読んで理論武装してから始めるというのはあまりお勧めしていない。とにかく、まずやる。それを通じて会社とは何か、株とは何かを肌で感じてもらいたい。

 男女の恋愛と一緒です。手をつなぐのが先かキスするのが先かをマニュアルを読んでからデートするよりもとりあえずデートしてみることが大切でしょう。

高山 「とりあえず、始めてみる」というのは、私自身の経験からもそう思いますね。小額でも自分のお金がかかっていると真剣度が違います(笑)。

藤野:始めた後は、入門書的な薄い本を買って通読し、全体像をつかむことも必要になってくる。難しい本を買っても、最初の方しか読まないで挫折するケースが多いので、とにかく薄い本でも通しで読んで全体像を掴む。それから経済学や簿記等の「本当の入門書」を通読する。

 一気に投資家としてのクオリティが上がりますよ。

 そうした勉強をしながら3年くらい投資を実践することが大切です。その頃には、投資家としての経験値が上がっていますから、その上で、投資の額を増やしてゆくのがおすすめの方法です。【了】

 たかやま・たいぞう/旅人・SFN特派記者
 1976年、東京生まれ。米国ワシントン州公認会計士・文京区議会議員(民主党所属)。立教大学法学部卒、早稲田大学大学大学院修了。大学卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)にて中小企業向け融資業務を担当。個人投資家として数社に対する株主提案の共同提案者となり、増配や社外取締役の選任を促す等の成果を得る。区議会議員としては監査委員等を歴任。

 ひふみ投信とは:
 「できるだけ安いコストで幅広いお客様の資産形成を長期にわたって応援したい」という思いをこめて2008年10月にスタート。「守りながら増やす」をコンセプトに成長する日本株に投資し、高い成績をおさめ続け、株式会社格付投資情報センター(R&I)が選定する「R&I ファンド大賞」を投資信託/国内株式部門で3年連続受賞している。

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