【コラム 山口利昭】木曽路・メニュー偽装事件-安全よりも安心を提供すべし

2014年8月23日 23:26

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記事提供元:さくらフィナンシャルニュース

【8月23日、さくらフィナンシャルニュース=東京】

 私もよく法事で利用させていただいている外食「木曽路」さんですが(すき焼き美味しいですよね)、松阪牛、佐賀牛と称して別の国産和牛を提供していたということが発覚。ご承知のとおり、8月15日には謝罪会見が行われたそうです。 東洋経済ニュースが記者会見の様子を詳しく報じています。20日には同社の社長さんは松阪市の市長さんのところへ出向いて謝罪をされ、「ブランドを守り、食の安全の向上に努めてこられた農家の方に申し訳ない」と述べられたそうです。

 新聞報道などから、料理長主導でメニュー偽装を画策していた、とされていますが、偽装が認められた各店舗の店長は関与を否定しているとのこと。しかし原価率を下げて利益を伸ばすためにやったとすると、なぜ店長ではなく料理長なのだろう・・・、と素朴な疑問が湧きます。

 そのあたり、やはり記者会見でも記者の質問が飛んだようで、上記記者会見のニュースによると、会社側は「とくに料理長からは動機は聞いていない」として「原価率という予算を守ることも料理長の責任だった」と述べておられます。しかし動機もきちんと判明せず、そもそも牛肉のブランドを偽るという行動は、むしろ料理長のプライドとは相反する行動だと思われるので、ますます疑惑が深まっているように思います。店舗の最高責任者である店長が、購買についてまったく関与していないとは考えられません。

 木曽路さんとしては、今後第三者委員会の設置も検討しているそうですが、今後設置される第三者委員会には以下の点をぜひ明らかにしていただきたいと思います。ここでシロだとすれば、組織ぐるみや不正隠しという二次不祥事はなかったとして、とりあえず消費者も「安心」できるのではないでしょうか。

 まず店長関与の点です。118店舗のなかの3店舗だけで偽装が行われていたとなると、おそらく組織関与の可能性は薄いと思います。そこで、むしろ店長レベルでの関与が疑われるわけですが、神戸ハーバーランド店の店長、北新地店の店長、そして刈谷店の店長それぞれの「つながり」はないのでしょうか?たとえば神戸店の店長が、それ以前に北新地や刈谷の店長だった、刈谷店の店長が北新地や神戸の店長と引継ぎを行っていた、といった事実です。記者会見では、牛肉のトレーサビリティを熱心に調査していたとありますが、この3店舗の店長のトレーサビリティこそ明らかにすべきです。そこになんらかの「つながり」が認められる場合には、店長がメニュー偽装に関与していた可能性はかなり強くなるはずです。

 以前、私が第三者委員会委員として関与した性能偽装事件のケースでは、こういった特定の支店長が不正に関与したことが判明し、支店長と取引先との不透明な金銭の受渡しが明らかになったケースがありました。

 そしてもうひとつ。今回のメニュー偽装は、大阪市消費者センターの二度にわたる抜き打ち調査が発端となって判明したそうですが、これは船場吉兆事件とまったく同じパターンです。つまり内部告発による可能性があります。船場吉兆事件では、最初に従業員の方が内部通報をしたのですが、会社側が何も対応されなかったので、福岡市の保健局に告発したことが発端でした。

 今回も、従業員の方が大阪市消費者センターに告発した可能性がありますが、はたして(抜き打ち調査よりも以前に)社内に内部通報はあったのでしょうか。それともまったく寝耳に水の抜き打ち調査だったのでしょうか。これも牛肉の安全というよりも、牛肉を提供する外食産業の「安心」にかかわる調査であり、ぜひとも第三者委員会によって明らかにしていただきたい点です。

 メニュー偽装発覚後の広報対応のまずさも指摘されていますが、これはまた危機広報について連載中の雑誌「広報会議」のほうで私見を述べたいと思います(記者会見での発言について、あえて申し上げるならば、質問への回答者がコロコロ変わること、「偽装はしたが、提供した牛肉は悪くない」と釈明することは、気持ちは理解できるのですが、かなりマズイと思います。こういった発言は、監督責任のある行政を本気にさせてしまいます)。

 外食産業の企業不祥事は、ともかく自浄能力があるところを消費者に示し、「安心」を提供することが危機対応の重要なポイントです。たとえば上記のような点を自ら調査し、二次不祥事にまで及んだものではない、ということを世間に示したうえで、最終的な社内処分、再発防止策の公表に及ぶべきだと考えるところです。【了】

 山口利昭(やまぐちとしあき)/山口利昭法律事務所代表弁護士。大阪府立三国丘高校、大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(平成2年登録 司法修習所42期)。現在、株式会社ニッセンホールディングス、大東建託株式会社の社外取締役を務める。著書に『法の世界からみた会計監査 弁護士と会計士のわかりあえないミソを考える』 (同文館出版)がある。ブログ「ビジネス法務の部屋」(http://yamaguchi-law-office.way-nifty.com/weblog/)より、本人の許可を経て転載。

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