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【コラム 山口亮】安倍政権は、実は働く女性の敵?
【8月17日、さくらフィナンシャルニュース=東京】
■第三極への有権者の失望は明らか
安倍政権の支持率や日経平均等の株価が若干の低下傾向を見せる中で、どう野党再編するかが、今後の日本政治のみならず、日本経済にとってもひとつのカギとなる。
以前より公務員制度改革の必要性を標榜し、次期衆院選までに野党再編が実現しなかった場合には、議員の職を辞すことを表明していた結いの党の江田憲司代表の意気込みは評価できると筆者は思う。
一方で、旧第三極と言われる政党の有権者の失望は、数字を見れば明らかだ。
今年8月に行われた「政治に関するFNN世論調査」では、結いの党の支持率は0.1%、みんなの党も0.7%と低い。民主党が6.3%、橋下徹氏らの暫定的な新党「日本維新の会」はかろうじて4.8%となっている。なお自民党は、39.1%の支持を得ている。
江田新党に対する支持が低い理由に焦点を当てて考えてみる。
経済政策への期待度が低いという点に集約されるのではないか。最近も、江田氏から「労働市場改革」や「資本市場改革」に関する具体的な提案を意識させる言葉は聞かない。
2009年に出版された、菅原琢著『世論の曲解なぜ自民党は大敗したのか』(光文社新書)では、統計データ等を用いて次のように論じられている。
すなわち、小選挙区選挙の趨勢を左右する有権者層の最大の関心事は「経済政策」であり、少なくとも選挙ごとに投票政党を変える有権者の多数は、小泉政権の路線である構造改革を支持しており、安倍首相自身が注力している憲法改正や安全保障政策に主要な関心はない----逆を言えば、この部分にこそ、野党の側にいる江田氏らの勝機がある。
■労組に依存した野党再編では未来がない
民主党の政権運営の失敗の要因のひとつは、株価が低迷していたことだった。
安倍政権が株価を非常に重要な指標として位置づけていることから、ひとつ教訓として導き出されるのは、野党の政党の数合わせよりも、「どのような経済政策が展開されるか」、「野党の経済政策に対する高い期待を、有権者の間でどのように形成させられるか」が重要であることがわかる。
このような観点から見ると、野党再編のために重要なことは、「労働組合に選挙運動を依存する民主党とは決して組んではいけない」ということだ。
民主党政権には、人材の選抜や育成、政策形成メカニズムなど、多くの問題点があったことはもはや言うまでもない。
今でも、多くの有権者が期待する経済政策について、民主党の抱える最大のジレンマは、
「政治活動にお金がかかる中で、労働組合に運動を依存してきた一方で、経済成長戦略で最も重要な労働市場改革を実現するには、(民主党の)最大の支持母体である連合の主要な支持基盤である正社員の既得権を破壊する必要がある」
ということに集約される。
詳細は別稿に譲るが、我が国の経済成長を阻害する最大の要因は、労働市場が硬直的で、既存企業の正社員を保護するために、若年層や女性の雇用機会が犠牲になるという、本末転倒な結果になっていることだ。
■逃れられない貧困の罠
2013年4月に厚生労働省が発表した統計では、生活保護世帯数は約160万世帯、生活保護受給者も約216万人で、人口対比(保護率)で1.70%と、およそ59人に1人の割合となっている。
本来なら働けるはずの人材が、生活保護というカテゴリーに一度入ると、労働所得を得た場合に、その分だけ生活保護費が減額されるため、就労して自立するインセンティブが働きにくくなる。
また、病気を理由に生活保護を受給している人は、病気が治った途端、生活保護を打ち切られる可能性が高いため、積極的に治療・回復を進めようとせず、無駄が蔓延していることは少なからず指摘されてきたが、現在もほぼ放置されているのが実情だ。
これを「貧困の罠」という。
労働人口が減少する中で、このような無駄に対して政治の介入しないのは、労働市場政策上の大きな問題だ。
対内直接投資や企業買収などにより、生産性の高い部門への金の移動が起こるようにする「法人税減税」、「資本市場改革」、「日本版スチュワートシップコード」のほかに、人が生産性の高い部門へ移動する労働市場改革は、必須の政策だ。
現に北欧諸国などの成長戦略が成功しているのは、企業への補助金や解雇規制がほとんどなく、企業破綻が多いけれど、代わりに失業者への職業訓練を施し、職業訓練を受ければ失業手当も厚くなるという仕組みになっているからだ。
産業別の労働組合を通じて再就職が容易で、企業は競争の中で守らず、国民は守るという、まともな社会を構築することに成功している。
■正社員の地位が既得権益になっている
労働市場が硬直的であり、正社員の地位が既得権のようになってしまい、正社員と非正規労働者の二重構造の中で、生産性の低い部門の労働者が、生産性の高い部門へと移動していない。それが我が国の労働市場の非効率、ひいては経済全体の成長を阻害している最大の原因である。
この点を最終的に是正できないならば、安倍政権の政策は「働く女性の敵」といわざるを得ないのが実情だろう。
正社員で働く女性が、結婚や出産で一旦職場を離れると、非正規社員での雇用しか残っておらず、正社員へ復帰することが難しい、こんな労働市場を放置していて、女性の閣僚や管理職の数だけ増やせばよいと考えているなら、それは大きな間違いだ。
そして、江田氏や橋下氏が真剣に野党再編を考えるなら、「労働市場改革」と「資本市場改革」の2点で、与党よりもまともな政策案(できれば政権を獲得したらこの法案を2か月以内に通しますという具体的な「議員立法案」)を提示することが、政権交代への何よりもの近道になる。
以前、「第三局の政治家に捧げる「みんなの党が壊れた理由」(下)」(http://www.sakurafinancialnews.com/news/9999/20140709_3)で述べたことの繰り返しになるが、労働市場改革については、八代尚宏氏の『労働市場改革の経済学』(東洋経済新報社、2009年)で推奨されているような政策を実現する努力を政治家にはしてほしい。
無理な期待かも知れないが、まともな労働市場改革の立法案をみてみたい。それが有権者の正直な本音だと思う。【了】
やまぐち・りょう/経済コラムニスト
1976年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒業後、現在、某投資会社でファンドマネージャー兼起業家として活躍中。さくらフィナンシャルニュースのコラムニスト。年間100万円以上を書籍代に消費するほど、読書が趣味。
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※この記事はSakura Financial Newsより提供を受けて配信しています。
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