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ローム株式会社は、業界初となる薄膜圧電素子を用いたMEMSファウンドリビジネスを開始した。ウエハ投入から実装までの国内一貫量産製造工程を確立し、月産200万個の量産体制を目指す。[写真拡大]
ローム株式会社は2014年8月5日、薄膜圧電(ピエゾ)素子を用いたMEMS(以下、圧電MEMS)工程を構築し、顧客の要望に応じた製品の開発・製造をウエハ投入から実装まで一貫して行う、業界初となるファウンドリビジネスを開始したと発表した。
ファウンドリビジネスとは、半導体業界以外ではあまり聞きなれない言葉だ。実は、世界の有名半導体メーカーの中には、半導体チップの製造を他社に委託し、自社では製造設備を持たない半導体メーカーが珍しくない。これはファブレスメーカーと呼ばれており、有名どころでは、マイクロプロセッサメーカーのTransmeta社や、グラフィックスチップメーカーのNVIDIA社、ATi社などが挙げられる。
ファウンドリはこの逆で、半導体チップの製造を専門に行う企業のことだ。取引先はファブレスメーカーをはじめとする業界他社となる。発注元のメーカーの設計データに基づいて半導体チップを製造するのが主な役割で、製造設備の管理にかかる膨大なコストの削減に貢献する。ファウンドリ側としても、大量の半導体チップを1社で請け負うことが出来るので、設備の運営や研究開発が効率よく行えるようになるというメリットがある。
ファウンドリ自体業界では一般的だとしたら、今回ロームが開始したファウンドリビジネスは何がすごいのか。それは、これまで加工の難しさから、特定用途のみに用いられ、様々なアプリケーションに対応させるのは困難とされていた「圧電MEMS」を取り扱い、共同開発に近い形での提供となるからだ。
「圧電MEMS」とは一体どのようなものなのだろうか。「圧電MEMS」は、薄膜圧電素子とMEMSが組み合わさった造語だ。MEMSは、機械要素部品、センサやアクチュエータ(駆動部)等を一つの基板上に集積化したデバイスで、主に加速度センサやジャイロセンサなどに使用されることの多い、微細な電気・機械システムの技術のこと。一方、圧電素子は、圧電体に加えられた力を電圧に、もしくは電圧を力に変換する圧電効果を利用した受動素子のことで、インクジェットヘッドやカメラのオートフォーカスなどに応用されている。センサ用途を例にとれば、従来のMEMSでは金属などの静電容量を検知するのに対し、圧電MEMSでは薄膜の圧電素子が物理的圧力を検知できるため、処理するコントローラーを極めて小さくシンプルにできる上、消費電力も必要時のみで済む。その結果、電子機器の小型化、省エネ化、低コスト化を実現する事ができるようになる。
これまで、高圧電特性を持つ薄膜の成膜が難しいことや、微細な圧電体の加工・成形が難しいこと、さらにはMEMS駆動部の加工も高精度に行う必要があるなど、多くの障壁があったため、圧電MEMSは一部の特定用途のみに用いられ、汎用性には乏しかった。
ところがこの度、ロームは長年培ってきた強誘電体技術、及びグループ会社であるラピスセミコンダクタの高感度MEMS・実装技術、さらにはKionixのMEMS微細化技術というロームグループ内の生産技術を総動員するだけでなく、薄膜圧電素子研究の権威である神戸大学大学院工学研究科の神野伊策教授から、薄膜圧電素子の評価測定方法について指導を受けることで、様々なマーケット及びアプリケーションに対応可能な圧電MEMSを実現することに成功し、ラピスセミコンダクタ宮崎に製造工程を構築したのだ。
富士キメラ総研の調査によると、世界のセンサ市場は、2013年に約3兆7000億円と推計されており、15年には約4兆1000億円規模になると予想されている。さらに、一般財団法人マイクロマシンセンターによる「平成23年度MEMS関連デバイス国内市場予測」によると、2020年のMEMS関連デバイス国内市場はMEMS全体で3兆1263億円、MEMSセンサで1兆5606億円まで、爆発的に成長することが予測されている。
スマートフォンなどのポータブルデバイス、産業用インクジェットヘッドなどをはじめ、注目の高まるウェアラブル機器や社会インフラモニタリング、健康モニタリング機器、車載用途、グリーンセンサネットワークなど、MEMSはこれからの成長市場にことごとく必要とされる技術だ。そんな中、様々な用途に活用できて省スペース、省エネにも貢献する圧電MEMSが活用できるのならば、メーカー各社の注目が集まるのは当然のことだろう。
現在、日本企業のセンサの生産販売金額は、推計で約1兆2000億円。これは世界シェアの約40%にあたる。ロームのファウンドリビジネスの開始によって、日本企業のシェア拡大も大いに期待できるのではないだろうか。少なくとも、センサネットワーク市場の拡大を加速させることにはなりそうだ。(編集担当:藤原伊織)
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