【経済教室】マーケットは嵐の前の静けさか?

2014年7月3日 19:10

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記事提供元:さくらフィナンシャルニュース

【7月3日、さくらフィナンシャルニュース=東京】

昨日のNY市場では、NYダウが129ドル高と最高値を更新しました。昨日発表された6月の中国製造業PMIの改善や、ISM製造業景況指数が底堅かったことなどが背景にあるようです。

6月のISM製造業景況指数は55.3と前月の55.4からほぼ横ばいでしたが、中身を見ると新規受注が前月の56.9から58.9に上昇しており、実質的に米製造業の景況感は改善傾向が続いているとみることができます。

もっとも、ISMや中国のPMIの改善は、先行するフィラデルフィア連銀の期待指数が6月に改善していたので、ある程度予想されたことでした。この期待指数は、米国の株価や金利にも先行するので、私は景気やマーケットの先行きを読むうえでこの期待指数に最も注目しています。

この期待指数にさらに先行するのが、このブログでもたびたび紹介しているエルニーニョ監視海域の海面水温(平年偏差)です。

このグラフ(図1)を見ると、海面水温が期待指数に4ヵ月先行しています。海面水温は今年2月にボトムを打って現在上昇(グラフは逆目盛りになっているので低下)を続けていることから、期待指数は6月にピークアウトするのではないかとみています。グラフをみてわかるように、期待指数はかなり鋭角的にピークアウトする特徴があり、このところ急上昇していた期待指数が7月に急反転して鋭角的なピークを形成する可能性が高そうに見えます。それはマーケットの方向転換の合図となるでしょう。

次回7月のフラデルフィア連銀景況指数は今月17日(毎月第3木曜日)に発表される予定で注目しています。また、10日に発表される6月のエルニーニョ監視速報にも注目しています。

もう一つ、私が注目しているのが、米国のMargin Debt(株式投資目的の借入金残高)の動きです(図2を参照)。

過去の米国株との関係をみると、Margin Debtが米国株のピークに3〜5ヵ月先行する傾向があるようです。足元のMargin Debtは今年2月に直近のピークをつけた後、鋭角的に落ちてきています。ナスダックなどハイテク株が持ち直してきているので、Margin Debtも再び増える可能性があるとみていましたが、直近で発表された5月のMargin Debtは4月からほとんど増えておらず、やはり2月にピークアウトしたのでは、と考えています。先行期間から考えると、米国株は今月あたりがピーク、ということになるのですが。

昨日の日経新聞には、日米の金融緩和が長期化する中で、日本株や円相場などマーケットの値動きが小さくなっている、との記事が載っていました。6月の対ドルでの値幅が1円56銭と1980年以降では2番目に小さく、6月の日経平均株価の1日平均の騰落も94円と、アベノミクス相場が始まった2013年以降で最低とのことです。

このような超平穏状態にあるマーケットは実は日本だけではなく世界的な傾向で、G7通貨のボラティリティ指数が2007年6月以来の水準まで低下したり、株価のボラティリティ指標であるシカゴ・オプション取引所のVIX指数が2007年2月以来の水準まで低下しています。

振り返ってみると、2007年2月といえば、ちょうどサブプライム問題が表面化してマーケットが一時荒れた時期でした。また、2007年6月は日経平均が18000円台の高値圏で一見底堅く推移していましたが、まるで死んだようにほとんど動かない状態だったことを思い出します。しかし、その直後にサブプライム問題で株価が急落し、リーマン・ショックへと至ったことを思うと、まさに、直前のマーケットの平穏な状態は「嵐の前の静けさ」であったと言えます。

「ボラティリティが極端に低くなっているのは、流動性相場が行き着くところまで行った証拠で、ドル円や株のバブルがいつはじけてもおかしくない」と指摘する専門家もいます。

私自身はマーケットを見る場合に特にこのようなボラティリティなどの指標を重視しているわけではありませんが、すでに述べたような株価がピークをつける兆候がいくつか見える中で、現在の平穏なマーケットがまるで「嵐の前の静けさ」のように感じられるのです。【了】

野田聖二(のだせいじ)/埼玉県狭山市在住の在野エコノミスト
1982年に東北大学卒業後、埼玉銀行(現埼玉りそな銀行)入行。94年にあさひ投資顧問に出向し、チーフエコノミストとしてマクロ経済調査・予測を担当。04年から日興コーディアル証券FAを経て独立し、講演や執筆活動を行っている。専門は景気循環論。景気循環学会会員。著書に『複雑系で解く景気循環』(東洋経済新報社)『景気ウォッチャー投資法入門』(日本実業出版社)がある。著者のブログ『私の相場観』より、本人の許可を得て転載。

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