政治家に訊く:山崎拓元自民党副総裁(1) 「安倍政権が引き継いだ対中外交負の遺産」

2014年7月3日 14:44

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記事提供元:さくらフィナンシャルニュース

【7月3日、さくらフィナンシャルニュース=東京】

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 隣国・中国との関係は未だかつてないほど、「最悪な状況」に陥っている。先月11日には東シナ海の上空で、中国軍の戦闘機2機が自衛隊機に異常接近。日本側が抗議したところ、反論と抗議の応酬に。中国国防省は動画をネット上に公開し、「先に異常接近してきたのは自衛隊機だ」と主張。一連の問題を受けて、防衛省の斉藤治和空幕長は、27日の会見で、「接近してきた機体の動画撮影について検討を始めた」と明らかにした。米中の関係も劇的に悪化していると見られる中で、我が国の対中外交戦略が問われている。そこで、SFNは、外交・安保問題の専門家でもある山崎拓元自民党副総裁に、5回にわたりインタビューを行った。
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●政権交代と習近平政権


 横田 対中関係の悪化が懸念されるだけでなく、中国国内の状況も全く不透明になっています。ここ数日、習近平国家主席(共産党総書記)が軍の汚職問題や利権構造に切り込み、自らの権力基盤固めを狙っていることが報じられています。
 
 山崎 率直に言って、習政権は、安倍政権に対する反発が非常に強い。これは、実に根深い経緯があります。少々長くなりますが、説明したいと思います。

 07年の第一次安倍政権の時は、「戦略的互恵関係」を樹立するとして、日中間で和解が行われた。

 その前の小泉政権では、小泉総理は、靖国神社に6回も参拝している。いずれも8月15日をはずしていろいろな月日を選んでいっていましたが、最後の最後で、宿願を果たし、8月15日に参拝した。最後の参拝の前は11回日中首脳会談を行っている。つまり、私の解釈では、「中国は靖国参拝だけで怒っているのではなく、歴史認識が問題だ」ということです。

 小泉総理は、日本の侵略という事実を認めていた。だから、参拝の度に中国は怒っては見せたけれど、首脳会談には応じていた。それは小泉総理の歴史認識は正しいと思っていたからです。

 「小泉総理は靖国神社には祖国日本のために戦地に駆り出されて命を落とした人々が祭られているので慰霊の誠を捧げている」

 ということを説明した。中国側は、「それなら仕方がない」とも言わなかったが、それでも首脳会談は開かれた。

 しかし、最後の参拝後、一気に日中の関係は冷却化し、そのまま、安倍政権にバトンタッチした。

 第一次安倍総理では、「靖国問題」は棚上げして、曖昧政策をとることで、胡錦濤政権と手を握った。ところがわずか1年で安倍政権は潰れてしまい、2009年には、歴史的な政権交代を迎えたわけです。

 一方、中国は、2012年に胡錦濤の後任として、習近平が第5代共産党中央委員会総書記に就任。その年の暮れに、我が自民党が政権を取り戻し、第2次安倍政権が発足します。しかし、その時、我が国は既に、民主党野田政権時代に尖閣諸島の国有化をめぐり、中国と非常に険悪な雰囲気になっていました。

●国有化宣言の複雑ないきさつ


 横田 2012年だと、民主党政権の末期になりますね。それ以前に石原慎太郎元都知事が、尖閣諸島の「都有化宣言」を米国で行い、中国からの激しい反発を招いたのは、記憶に新しいところです。
 
 山崎 ええ。石原元都知事が、尖閣を「東京都で買い上げる」構想をわざわざワシントンで発表したものだから、中国を非常に刺激した。中国側は鄧小平以来、この問題を棚上げにしようとしていたのですが、寝た子を起こしたというか、石原さんの都有地政策で、問題を顕在化させてしまった。
 
 横田 しかし、「国有化宣言」をしたのは野田(佳彦)政権です。
 
 山崎 これも複雑ないきさつがあります。

 民主党は「親中政権」で、いっさい靖国参拝を行いませんでした。ところが、尖閣問題でぎくしゃくして、中国は漁船の姿をした武装船に時々領海侵犯をさせた。接続水域まで来て、海上保安庁の船とドンパチして、中国側が尖閣で牽制してきた時に、野田政権が「国有化宣言」をしたのです。

 野田政権は都有地よりも国有地の方が中国にとってはいい筈という判断をした。

 なぜなら、中国は全て国有地なので、都有地というと、国有地ではないという錯覚がある。私有財産制度が日本の場合は、国有地は私有地より少ないのですが、国土であるという概念は一緒。

 つまり、日本の場合は、国土の上に、私有地と国有地と、地方自治体が持っている公有地がありますが、中国は全て国有地。国民には、土地の使用権を認めているだけで、土地の使用権が日本でいう私有地に該当しますが、土地の所有に対する感覚が異なるのです。

 石原さんの言動は中国で錯覚をうみ、中国側は怒りもしたが、国と都とで喧嘩するわけにもいかず、困惑していました。
 
 日中関係が行き詰まっていた時に、外務省出身の山口荘元外務副大臣が訪中した。

 野田元総理が国有化宣言をする直前、ウラジオストックでAPECがあった。山口元政務官は、「野田総理と立ち話でもいいから会談してくれと、昵懇だった戴秉国という国務委員に頼んだ。仄聞ですが、「国有化宣言はさせないから」ということで交渉したらしい。

 戴秉国はその言葉を信じて、胡錦濤に進言し、「立ち話首脳会談」が実現した。

 瞬時、日中関係修復という雰囲気が流れたが、帰国後すぐに、野田元総理は、閣議決定をしてしまった。
 
 横田 山口元副大臣が騙したような格好になったということですね。
 
 山崎 本人は否定すると思うけど、戴秉国に会ったことも、その後彼が退任したことも間違いない。それで日中関係が再び険悪となり、その状態を安倍政権は引き継いだのです。(聞き手・SFN編集長 横田由美子)【了】

 やまさき・たく/近未来政治研究会最高顧問 1936年生まれ。福岡県立修猷館高校卒業。 早稲田大学第一商学部卒業後サラリーマン生活などを経て 1967年に福岡県議会議員に当選。1972年の総選挙で衆議院議員初当選。以後、12回当選。防衛庁長官、自民党幹事長,建設大臣、自民党政調会長、自民党副総裁などの要職を歴任。柔道6段、囲碁5段。2012年、秋の叙勲で旭日大綬章を受章。HPにYAMASAKI TAKU OFFCIAL WEBSITE(http://www.taku.ne)がある。

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※この記事はSakura Financial Newsより提供を受けて配信しています。

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