【コラム 山口利昭】会社法改正法案成立-社外取締役への期待というけれど・・・

2014年6月25日 12:38

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記事提供元:さくらフィナンシャルニュース

【6月24日、さくらフィナンシャルニュース=東京】すでに皆様ご承知のとおり、6月20日に会社法改正法案が成立しました。日曜日の日経新聞の社説でも取り上げられ、社外取締役制度の導入問題に焦点をあてて「企業統治の質を競え」とありました。日経だけでなく、どの新聞でも、上場会社における社外取締役の増員問題が話題の中心です。

 ただ、コーポレートガバナンスの向上・・・という意味で社外取締役の導入が推奨されることは世間で語られているとおりだと思いますが、会社法を取り巻く環境を考えた場合、社外取締役の責任についても今後検討されてもよいのではないかと考えています。いやむしろ、社外取締役を増員せよ、といった風潮の中で、社外取締役の法的リスクをも承知の上で就任しなければ痛い目に合うのではないか、と危惧します。

 まず、会社法改正のグレーゾーンとして当ブログでも取り上げた「特別支配株主の売渡請求」の課題です。

 特別支配株主の少数株主への株式売渡代金の支払い担保は、結局のところ対象会社の取締役の「承認」問題に委ねられることになりました。特別支配株主が存在する対象会社の社内取締役には実質的に「承認」の可否を検討することは期待できないわけで、当然社外取締役に負荷がかかります。M&Aにおいて、この制度はおそらく多用されることになりそうですから、非常に厳しい立場に立たされる社外取締役さんが増えるはずです。

 また(これも当ブログで再三申し上げてきたところですが)、監査等委員会設置会社という機関設計を選択することは、スピード経営に資することが言われていますが、逆に言えば監査等委員会委員たる社外取締役にとっては、よほどしっかりと社長を監視しなければ、暴走を未然に止めることはできず、また不祥事発覚時において法的責任を問われるリスクも増えるものと予想されます。社外取締役として、内部監査部門の人員を厚くすること、内部監査部門のスキルを向上させることを会社側に要求し、その連携を図ること(内部統制監査)は大前提であり、社長さんが監査の重要性を十分に理解しておられる場合は別として、これまでの(常勤監査役制度を前提とした)社外監査役の雰囲気で社外取締役を引き受けることはできないものと考えています。

 そしてなんといっても「株主との対話の時代」の到来です。

 6月17日の朝日新聞ニュース(電子版)でも報じられていましたが、リソー教育社の粉飾決算について、元株主ら7名が虚偽記載責任を問う裁判を提起したそうです。株主との対話はガバナンスや内部統制がしっかりしていることが前提なので、何か問題が発生して株価が下落した場合、開示責任を問う裁判は今後も増えるものと予想しています。上場会社にとって、情報開示は役員の利益相反行為になることが多いのはどなたでもご承知のとおりです。誰だって会社や役員にとって都合の悪いことは隠したり、少し歪めて開示したくなります。それを「ありのままに伝えなければ」と意見を述べることができるのは社外役員しかいないかもしれません。普段はKYはご法度ですが、社内常識が蔓延している状況では、あえて社外取締役はKYにならなければいけないかも?ということです(まあ、当たり前といえば当たり前ですが・・・)。

 社外取締役制度の「期待ギャップ」(会社と株主との期待認識の食い違い)が今後は間違いなく発生すると思います。リーガルリスクを少しでも減らすためには、各社が「当社では社外取締役に何を期待しているのか」きちんと機関投資家や一般の投資家に説明することが求められるのでしょうね。もちろん「ひな型」が通用するほど甘いものではありません。【了】

 山口利昭(やまぐちとしあき)/山口利昭法律事務所代表弁護士。大阪府立三国丘高校、大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(平成2年登録 司法修習所42期)。現在、株式会社ニッセンホールディングス、大東建託株式会社の社外取締役を務める。著書に『法の世界からみた会計監査 弁護士と会計士のわかりあえないミソを考える』 (同文館出版)がある。ブログ「ビジネス法務の部屋」より、本人の許可を経て転載。

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