【コラム 高田英樹】日本の財政の真実〜政権交代を超えて 〜「社会保障と税の一体改革」の歴史(その2)

2014年6月17日 11:14

印刷

記事提供元:さくらフィナンシャルニュース

【6月17日、さくらフィナンシャルニュース=東京】

●100年に一度の世界的な危機

今般の消費税率引上げは、「社会保障と税の一体改革」の一貫として行われているものであり、そのうち年金の部分については、10年前、平成16年の年金改正以来の経緯がある。前回のコラム「10年越しの改革 社会保障と税の一体改革の歴史(1)」で解説した。

そして、年金の他、医療、介護、さらに少子化対策を含めた社会保障給付の財源を、消費税によって確保していく、という「一体改革」の基本的な考え方が確立されたのは、平成20年、麻生内閣の頃だ。

当時、平成20年の秋から冬にかけては、リーマンショック後、「100年に一度」とも称される世界的な経済危機の中にあった。

このとき政権を担った麻生総理は、「短期は大胆、中期は責任」との考え方を打ち出し、緊急的な経済対策を実施する一方、平成20年12月24日、「持続可能な社会保障構築とその安定財源確保に向けた中期プログラム」を決定した。

この中で、当面は景気回復に集中的に取り組んだ上で、3年後の平成23年度までに、消費税を含む税制抜本改革を行うための「法制上の措置」を講じるとの方針を定めたのである。そして、年明け後、平成21年の通常国会において成立した、平成21年度税制改正法附則第104条により、この方針は法制化される。この法律は、今回の消費税率引上げにつながる、決定的な意味を持つこととなった。

 ●民主党政権下の財政運営戦略

 平成21年夏の総選挙において、自民党から民主党への政権交代が実現し、この税制改革の方針はいったん白紙に戻ることとなった。しかし、既に法律として成立した「附則第104条」は、政権が代わっても自動的に失効するわけではない。平成23年度、すなわち平成24年3月までに税制抜本改革へ向けた「法制上の措置」を講じるとの義務は、民主党政権にも引き継がれたのである。

民主党政権においては当初、消費税率引上げが想定されていなかったのは事実だ。そもそも、平成21年の民主党衆院選マニフェストにおいては、中長期的にどのように財政を健全化し、社会保障財源を確保していくかということについての言及はなかった。

無駄の排除や、歳出の見直し等により、4年間で16.8兆円の財源を捻出するとされていたものの、この財源は全て、子ども手当等の新規の施策に充てられることとなっており、仮に16.8兆円が捻出できたとしても、足下で穴が空いている財政の健全化や社会保障財源の確保につながるわけではない。

16.8兆円の是非もさることながら、むしろ、財政と社会保障の全体像へのアプローチを欠いていたことに大きな課題があったように思われる。

いずれにせよ、民主党政権最初の予算である平成22年度予算の編成作業を経て、無駄の排除による財源確保への限界が認識されるようになった。

そして、民主党政権下でも、国家戦略室を中心として、中長期の財政健全化へ向けた議論が開始され、菅内閣の下、平成22年6月、「財政運営戦略」が定められた。この「財政運営戦略」は、民主党への政権交代後、一時的に空白となっていた、日本のマクロ財政運営の方針を確立するものとなったが、その中で、

「国・地方の基礎的財政収支について、2015年度までに赤字を対GDP比で半減し、2020年度までに黒字化する」

との財政健全化目標が定められた。この目標は、再び自公政権に交代した後、現在においても引き継がれている。

 ●財政政策の大転換と再びの政権交代

 この財政健全化目標を達成するためには、消費税率の引上げがほぼ不可避となる。そして、菅内閣において、前述の「附則第104条」への対応も視野に、消費税率引上げを含む「社会保障と税の一体改革」に取り組むこととされた。

すなわち、民主党政権の財政政策が大きく転換されたのである。

さらにその検討は、野田内閣に引き継がれ、党内での激しい議論を経て、平成24年3月、「附則第104条」の期限内に、税制抜本改革法案が国会に提出される。

当時は「ねじれ国会」だったが、野党であった自民党・公明党との3党協議を経て、平成24年8月、法案は成立した。その後、再び政権交代が起き、自民党・公明党政権となったが、3党の合意で成立したこの法律に基づき、本年4月の消費税率引上げは実施されることとなったのである。

このように、二度の政権交代を挟みながら、与野党の主要政党の合意で「社会保障と税の一体改革」が実現に向かっていることは画期的であり、その政治史的な意義は大きい。

麻生財務大臣も、このことについて、「日本の民主主義の成熟度合いが優れていることを示すもの」として、国際会議で紹介している 。消費税率引上げは、決して拙速で行われたものではなく、長い議論の蓄積の上に成り立っているのである。【了】

 注1:平成25年10月1日、麻生財務大臣記者会見参照http://www.mof.go.jp/public_relations/conference/my20131001.htm

注2:本稿は、個人として執筆したものであり、組織の見解を代表するものではありません

 たかだ・ひでき/1995年に東京大学法学部卒業後、財務省(旧大蔵省)に入省。1997年から99年に英国留学。2003年から06年に、英国財務省で勤務。2009年に民主党政権下で新設された「国家戦略室」の最初の職員として抜擢された。主計局、主税局等で、主に財政政策に携わっている。個人blogに日英行政官日記がある。

■関連記事
【コラム 高田英樹】日本の財政の真実〜政権交代を超えて 〜「社会保障と税の一体改革」の歴史(その2)
山梨大若山教授がSTAP細胞ができると言っているのは「小保方氏1人」と突き放す
【速報】小保方氏らの論文ねつ造疑惑で若山照彦教授が会見

※この記事はSakura Financial Newsより提供を受けて配信しています。

関連記事