【経済分析】‘カオス’が明らかにした近代科学と経済学の限界(下)

2014年6月3日 10:50

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記事提供元:さくらフィナンシャルニュース

【6月3日、さくらフィナンシャルニュース=東京】

ここで再び経済予測に話しを戻したいと思います。

現実の経済を「Y=C + I」といった方程式で表そうとする計量モデルの基本的な考え方は、Y(GDP)という「全体」をC(個人消費)やI(設備投資)といった「部分」から説明しようとするもので、それはまさに、『万物の運動はその構成要素の単純な力学的運動から説明することができる』とするニュートン力学の世界観の上に立っているといえます。

計量モデルに限らず、新古典派経済学など従来の伝統的な経済学は基本的に要素還元主義に立っており、経済現象の解明にあたっては、まずいくつかの構成要素に分解したうえで主に線形数学を使って経済全体を説明しようとしてきました。

ニュートン力学が自然科学の土台を築いている以上、自然科学を模範としてきた従来の経済学がそのような手法をとってきたことは自然の成り行きであったといえます。

しかし、経済はそれを構成する要素間の相互作用が働く複雑な非線形の世界です。経済には好況と不況の波が繰り返し現れる景気循環が存在しますが、その根拠も経済が複雑な非線形の世界であるところにあります。ちょうど、ネズミが増えると繁殖率が低下していくように、景気が良くなると物価や金利が上昇して、今度はそれらが景気の制約要因となっていきます。

その結果、ネズミが一定の範囲で増減を繰り返すように、景気も好況と不況を繰り返すことになるわけです。まさに、景気循環は経済が「生きている」ことの証しであると言えます。

ニュートン力学によって捉えることのできるのが、実は複雑な動きを伴わない(要素同士の相互作用がない)静止した世界、いわば単純化された世界であり、複雑な現実の世界、たとえば生命現象を解明することができないのとちょうど同じように、従来の経済学は、数式化により自己の経済理論の体系が成り立つような前提条件(たとえば新古典派経済学における‘収穫逓減の法則’)の下で抽象化された経済を取り扱っているだけで、現実の複雑な経済現象を決して捉えているわけではないと考えられます。

「経済を予測する」とは、自然科学のようには実験ができない経済学においては、仮説や理論を検証する唯一の実験に相当するものであると私は考えています。計量モデルを使ったシンクタンクの経済予測が当たらないということは、計量モデルの背景にある従来の経済学の理論なり仮説が決して現実の生きた経済を説明するものではない、ということを意味しています。

従来の経済学では現実の経済の姿を捉えることができないとすれば、捉えるための手立てが他に何かあるのでしょうか。次回のブログでは、実際に私が行った予測の実例に基づき、どうしたら経済の本当の姿を捉えることができるのかを考えてみたいと思います。【了】

のだせいじ/埼玉県狭山市在住の在野エコノミスト
1982年に東北大学卒業後、埼玉銀行(現埼玉りそな銀行)入行。94年にあさひ投資顧問に出向し、チーフエコノミストとしてマクロ経済調査・予測を担当。04年から日興コーディアル証券FAを経て独立し、講演や執筆活動を行っている。専門は景気循環論。景気循環学会会員。著書に『複雑系で解く景気循環』(東洋経済新報社)『景気ウォッチャー投資法入門』(日本実業出版社)がある。著者のブログ『私の相場観』より、本人の許可を得て転載。

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