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【5月29日、さくらフィナンシャルニュース=東京】
●請求権が発生していないのに消滅時効
川村 行方不明から7年経ったら、すぐに家庭裁判所に申し立てをし、早く失踪宣告を出してもらわないといけないということですか。
郷原 そうです。家庭裁判所に申し立てて失効宣告を受けるまでに通常1年から1年半ほどかかります。
7年経って失効宣告の申立て可能になった時点で申立てをしても、数か月しか請求期間がない。「行方不明者の母親がまだ生きているのでは」と1年以上、失踪宣告の申し立てを躊躇していると、もう間に合わない。
死亡一時金は最高で32万円ほどですが、金額にかかわらず、このような理不尽なことが、あっていいわけがありません。ある社会保険労務士の人が、身内に、実父に失踪宣告が出て、年金事務所に勧められて死亡一時金の請求をしたら、時効だという理由で支払を拒絶されたということで、そのような解釈は民法の規定に反するのではないかと年金業務監視委員会に問題を指摘してこられたのです。
「請求権が発生していないのに、消滅時効が進行する」
というのは、明らかに民法の規定に反するということです。
川村 厚労省はどのように対応したのでしょう。
郷原 さすがに、そのような消滅時効の起算点の解釈で死亡一時金を支払わない、というのでは、もたないと思ったのでしょう、審判確定時から時効が進行するという変更前の解釈であれば死亡一時金がもらえた人に対しては、「時効を援用しない」ということで逃げ切ろうとしました。
民法上の時効は、例えば支払い義務のあった人が時効を主張して初めて成り立つものです。しかし、もともと国家の債務は、時効を援用しなくても、時効消滅するという会計法の規定があって、国の債務は民法上の時効とは違い、時効消滅したら有無を言わさず払わなくてもいいことになっています。
ところが、「消えた年金問題」が炎上していた第一次安倍内閣の時代に、、「時効だからといって支払わないと、世間から批判が噴出する」ことが予想されたため、「年金記録の訂正により発生した年金受給には時効を適用しない、時効消滅しない」という「時効特例法」を、急遽成立させ、その時に、国の年金債務については、時効を援用しないという措置がとれることにしてしまったのです。
厚労省は時効を援用するか否か、----つまり、時効を理由に支払を拒絶するかどうかについて裁量権を得たわけです。
川村 それをいいことに、失踪宣告者の死亡一時金の問題についても、自分達の解釈の間違いを「時効を主張しない」ということで誤魔化そうとしているわけですね。
郷原 そうです。しかし、ならば東日本大震災の被災者に対してはどうなのか。
行方不明者が3カ月で死亡とみなされるわけですから、震災発生時に行方不明になった人は、死亡一時金の請求にかかる時効2年を足しても、2013年6月11日以降は、請求する権利がなくなっていた。
未だ仮設住宅で大変な生活を強いられている人たちに、死亡一時金はどれだけ払われているのか、という問題が今度は浮上してきた。
川村 厚労省はそうした問題について、どのように考えていたのでしょうか。
郷原 問題の存在にさえ気が付いていませんでした。とにかく、「どれだけ死亡一時金が払われていたのか調査すべきだ」と指摘した。それが、年金業務監視委員会の最後の会合になる3月28日のことです。
●わずか25件の支払
川村 厚労省は速やかに調査をすると答えたのでしょうか。
郷原 その時点では、どのように調査をすることができるのか検討し、後日報告します、とのことでした(参照議事録15頁辺り)。
報告してもらっても、年金業務監視委員会は3月31日の時点で廃止されるのに、どこに報告するのかと追及しました。なるべく大事にはしたくなかったのでしょう。
委員会が廃止された後に、「元委員長」の私に報告にきました。それで、たった25件しか払われていないということがわかったのです。厚労省の担当者自身も、さすがに「これは少なすぎますね」と漏らしていました。
川村 行方不明者は1万5000人を超えていたわけですから、死亡一時金の受給権がある人が数千人いる可能性もあります。
郷原 死亡とみなされた行方不明者のうち、年金受給年齢に達していない人生計を共にしていた同居者が生きているケースが死亡一時金の支給の対象になるわけですが、確かに、このような受給対象について正確な数字を出すというのが難しいことは分かりますが、何らかの推定の数字でも示すべきだと思います。それによって、問題の大きさが認識されると思います。
川村 5月13日に厚労省が発表した課長通知によると、結局、この解決策としては、先ほどの「時効を援用しない」ということにとどまったわけですが。
郷原 「時効特例法」の成立に伴って、厚労省は年金の支払について大きな裁量権を得ました。そういうことが積み重なることによって、厚労省が身内の論理だけで物事を処理していくことが可能になっていくのです。しかも、年金業務監視委員会がなくなってしまった今、厚労省は、外部から監視されることもなく、厳しい指摘を受けることもないのです。
川村 今後、我々国民はどうしたらよいのでしょう。
郷原 厚労省や政府がやっていることに、本当に問題ないのかどうか、自分自身の年金について、本当に問題はないのか確かめてみること、疑いの目を持つこと、が必要だと思います。【了】
かわむら・まさよ/1966年、静岡県出身。名城大学法学部卒業後、中部経済新聞社を経て、日刊ゲンダイ、ロイター通信、週刊文春、AERA、週刊朝日などで敏腕記者として活躍する。経済産業省や財務省などの経済官庁を中心に強いパイプを持つ。2011年よりフリーランスとして活動。
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※この記事はSakura Financial Newsより提供を受けて配信しています。
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