郷原信郎氏、激白「厚労省の大本営発表を疑え」(上)

2014年5月29日 06:32

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記事提供元:さくらフィナンシャルニュース

【5月29日、さくらフィナンシャルニュース=東京】

 郷原信郎(郷原綜合コンプライアンス法律事務所代表・元総務省年金業務監視委員会委員長)
ごうはら・のぶお/1955年、島根県出身。東大理学部卒。83年に検事任官。長崎地検次席検事などを経て、03年からは桐蔭横浜大学大学院特任教授を兼任。06年に退官し、郷原綜合法律事務所を設立。関西大学客員教授。防衛省公正入札調査会議委員等多くの公職に就く。

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東日本大震災の行方不明者で死亡とみなされた人のうち、年金受給資格年齢に達していない人に対する死亡一時金について、震災から3年以上たった今年5月13日までに、たった25件しか支払われていないことがわかった。これを受け、同日、厚生労働省は日本年金機構に対し、措置を取るよう課長通知を出した。この問題を指摘し、顕在化させたのが、今年3月末で廃止された総務省年金業務監視委員会だ。
同委員会は、2010年の日本年金機構発足を機に、年金業務全般を外部から監視する目的で設置された総務省の8条委員会だったが、今年3月末で廃止になった。最後の会合で指摘されたのが、今回の東日本大震災にかかる死亡一時金の支払いについてだ。委員長を4年間務めた弁護士の郷原信郎氏にジャーナリストの川村昌代氏が死亡一時金の問題点について聞いた。
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 ●死亡一時金の多くが時効消滅

 川村 まず、死亡一時金の定義はどのようなものか。

郷原 3年以上、年金の保険料を納めた人が受給年齢に達する前に死亡した場合、生前、同居して生計を共にしていた遺族が受け取るものです。この死亡一時金は、請求が可能になった時、つまり、被保険者が死亡した時点から2年を経過すると時効消滅します。

川村 東日本大震災の死者・行方不明者は2万7000人、行方不明者は最大15000人を超えたと報じられています。この行方不明者のほとんど大津波で亡くなった方々ですが、その遺族の死亡一時金の多くが時効消滅しているのではないかということを、総務省年金業務監視委員会で問題にしたということですね。

郷原 そうです。通常は、死亡届を出した時点で、各自治体の窓口から説明があり、年金事務所に請求の手続きをして死亡一時金を受け取ります。

東日本大震災では、特別財政援助法により、震災から3カ月たった時点での行方不明者を「死亡と推定」としました。そうなると、現在の法律では、この死亡と推定された日から2年が過ぎると死亡一時金の請求が「時効」となります。2013年6月11日までに請求が行われないと、行方不明者の遺族が請求する権利を失ってしまうのです。

川村 今年の3月末、廃止される直前の年金業務監視委員会で、その点を指摘したことを受け、厚労省が調査した結果、大震災の行方不明者の遺族からの死亡一時金の支給は、わずか25件だったことがわかったということですね。そもそも、年金業務監視委員会が、このような問題を指摘した経緯というのは、どのようなものだったのでしょう。

 ●「時効」についての解釈を変更

 郷原 問題の発端は、失踪宣告者の死亡一時金の消滅時効の起算日について疑義が生じたことでした。

長い間、行方不明の人については、相続などの法的関係が定まらなくて困ってしまうので、7年以上行方不明であれば、家庭裁判所に「失踪宣告」の申立てができます。家裁の審判で、失踪宣告が出ると、生死不明から7年間経過した時点で死亡したと推定されることになります。

この場合の死亡一時金の請求の手続は、失踪宣告の審判が確定した時点からできるわけですから、審判確定の時点から死亡一時金の消滅時効が進行するというのが、当然の解釈です。厚労省も、日本年金機構も、当初は、そういう解釈をとっていました。

ところが、2010年、数十年も所在不明の高齢者がずっと年金を受け取り続けていたというケースが多数発覚し、社会問題になった際に、厚労省は密かに、失踪宣告者の死亡一時金の「時効」についての解釈を変更していたのです。

厚労省はこうした所在不明の高齢者が生きていることを前提に支払われていた老齢年金について、家族に失踪宣告をするように勧奨することで、老齢年金の支払いを止めようとしました。

しかし、家族が実際に失踪宣告の申立てをして審判が確定した場合、死亡と推定された日に遡って遺族年金の受給資格が発生します。一方で、それまで被保険者が生きている前提で支払われていた老齢年金は返還してもらうことになりますが、会計法上、既に支払って老齢年金を取り戻せるのは5年までと定められていますから、10年も20年も行方不明の高齢者の老齢年金を家族が受け取っていた場合、5年前以前の老齢年金は取り戻せない、その上に、遺族年金も支払うことになり、二重払いになってしまう。

そこで、厚労省は、失踪宣告者の年金の時効についての解釈を変更し、「死亡と推定される日」つまり、生死不明から7年目の時点から、時効が進行するという解釈をとるよう、日本年金機構に内部文書で通知したのです。

そのため、失踪宣告が出た場合の死亡一時金を請求できる期間が短くなってしまったのです。【続】

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