【コラム 高田英樹】国会業務の改善へ向けて(1-2)

2014年5月6日 14:35

印刷

記事提供元:さくらフィナンシャルニュース

【5月6日、さくらフィナンシャルニュース=東京】こうした多段階のプロセスを経て、完成した答弁書は、翌朝の総理や大臣への説明に備えて、冊子の形に束ねられる。

一日の審議のために用意される答弁は数十問から、百問を超える場合もあり、電話帳数冊分の厚さになることも珍しくない。これだけの資料を一晩で完成させるのだから、いかに膨大な作業かが分かる。この答弁書のセットが完成するのはたいてい明け方となる。他方、朝から始まる委員会審議の前に、総理や大臣にこの膨大な答弁資料を説明しなければならない。したがって、この間は徹夜となることもしばしばだ。
もちろん、早朝から膨大な答弁資料の詰め込み勉強をして審議に臨まなければならない総理や大臣の負担も大きなものがある。

私自身も、二十年近く前に役所に入ってからずっと、答弁の作成を担当する側として、国会待機や深夜の作業を行ってきた。現在は文書課の室長として、答弁の「審査」を担当している。

二日に一度の当番の日には、財務省の全ての答弁をチェックしなければならず、終了時間は省内で「最も提出の遅い」答弁に合わせることとなる。さらに、翌朝早く行われる大臣への答弁説明にも同席しなければならない。そのため、予算審議中などには、当番の夜はほぼ徹夜となる。

こうした長時間の深夜勤務を、女性職員が(本来は女性に限った話ではないのだが)育児をしながらこなすことは難しい。
また、国会業務の問題点は、拘束時間が長いことのみならず、それがいつ発生するか、どの程度になるかが当日になって初めて分かるという、突発性、予測不可能性にある。この側面が特に、家庭・育児との両立にとっては妨げとなる。

日々行われる国会審議の背景に、このような作業が行われていることを、ほとんどの国民は知らない(関心がない)し、国会議員でさえ知らない人が多い。
特に、国会議員が直接関与するのは質問通告のところまでで、後は政府内での作業である。政府内での作業についてももちろん、より効率化する努力を行うべきだが、長い年月を経て確立されてきたプロセスであり、国会審議の位置づけ自体を大きく変えない限り、改善には限度がある。他方、質問通告をより早くすれば、国会業務の負担が大きく軽減されうるということは昔から指摘されてきた。この質問通告は、本来は委員会の前々日の正午までに行うことが、平成11年の与野党申し合わせで定められている。

しかし、実際にこのルールが守られることは稀有で、前述のように、ほとんどは前日であり、しかも前日の夕刻以降となることも少なくない。せめて、すべての質疑者の質問通告が前日の勤務時間内に行われれば、質問の当る部局は確定されるため、それ以後の無用な待機は無くすことができる。
また、質問通告が前々日、あるいはせめて前日の午前中ぐらいに行われれば、深夜の作業は相当程度減らすことができるだろう。

なお、他の主要先進国でも当然、議会における審議はあるが、日本のように連日深夜の国会作業をしている国は無い。私が以前勤務していたイギリスでも、日本と比べて大臣が出席する国会審議の頻度自体がはるかに低く、また、審議が行われる際には、3日前に書面で質問通告がなされるため、十分に余裕を持って答弁を準備することができる。

日本の国会業務の改善、特に質問通告の早期化は、昔から何度となく言われてきたが、ほとんど変わることはなかった。

それは何故なのか。

最も大きな理由は、単なる不知、ないしは無関心であろう。
今回、国会業務の改善に本格的に取り組むにあたって、何人かの議員の方と話して分かったのは、議員でさえ、前述のような国会作業の実態をほとんど知らず、質問通告が遅くなることによってどのような影響が生じるのか認識がないことだ。人間は誰しも、宿題は期限ぎりぎりに提出する傾向がある。

質問通告は前日行われることがほぼ常態化しているため、おそらくほとんどの議員は、何ら悪気なく、そうした慣習を踏襲しているのだろう。そして、官僚の側は、議員に対して質問通告、ひいては審議自体をお願いする立場であるため、これを所与のものとして対応せざるを得ない。そして、マスコミを含め、第三者は、こうした問題の存在自体、知ることはない。

だが、仮に議員の側が質問通告を早くしようと思っても、それが難しい事情もある。

例えば、与野党の主戦場となる予算委員会は、日々、審議の日程自体を巡って与野党が駆け引きを行っており、翌日の委員会の日程が前日にようやく決まることも珍しくない。そうすると、質問に立つ議員も、前日にいきなり指名されて、あわてて質問の用意をしなければならなくなる。こうしたケースでは、大変なのは議員の側も同様だ。本来、こうした「その日暮らし」の日程闘争を行っている国会運営自体、見直すべきであるという指摘も多いが、現状では、これは与野党の国会戦術の根幹にかかわるものであり、短期的に変えることは難しい。【続】

■関連記事
【コラム 高田英樹】国会業務の改善へ向けて(1-2)
【コラム 高田英樹】国会業務の改善へ向けて(1-3)
【コラム 山口亮】社外取締役導入は万能薬にあらず(中)

※この記事はSakura Financial Newsより提供を受けて配信しています。

関連記事