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本に載らない現場のノウハウ-中小企業の人事制度の作り方:第18回 人事制度作りに取り組む上で(まとめ)
これまで中小企業での人事制度作りについてのポイントを説明してきましたが、本コラムもいよいよ最終回になりました。最後にこれまでのまとめとして、人事制度作りに取り組む上での心構えなどをあらためてお伝えしようと思います。
■制度作りも運用改善も最終ゴールはない
これまで、「自社に合った制度構築を行うこと」と「制度と運用のバランスを考えること」が大切であることを述べてきました。このコラムを通じて最も理解して頂きたかったことですが、合わせてもう一つ覚えておいて頂きたいのは、この「自社に合った制度」も「制度と運用のバランス」も、その時々の状況や時間の経過に伴って“変化していくもの”だということです。
会社規模の変化、業績の変化、組織構成の変化、年齢構成や男女比ほか人員構成の変化などの内部的なものから、業界や市場の変化、景気動向の変化といった外部的なものまで、企業の周辺では常に変化が起こっています。この変化は人事制度と無縁ではなく、その状況によって“自社に合うもの”も“最適なバランス”も変わってきます。
ただ、人事制度作りに関わる人の中には、このあたりの変化に関心の薄い方がいらっしゃいます。管理部門、間接部門にいるために現場の事情にうとかったり、顧客に直接接することが少ないために、市場の変化をとらえられなかったりということがあります。「人事制度作り」を「建物を建てる」ことと同じような感覚でいて、一度完成すると「これで当分の間は大丈夫」と思っているような様子が見えます。
企業人事を“パソコン”などのシステムに例えたとして、人事制度の仕組みが「ハードウェア」、制度運用が「ソフトウェア」という捉え方を聞きます。しかし、環境変化に伴う改革、改善が必要な頻度を考えたとき、私は企業組織そのものが「ハードウェア」、その中での人事制度は「ソフトウェア」、制度運用は「操作、オペレーション」だと思っています。
ある目的、結果を得るために「ソフトウェア(制度)」の「操作、オペレーション(運用)」を行い、想定した結果が得られないならば、「操作、オペレーション(運用)」を工夫するか、「ソフトウェア(制度)」の改修を考え、その時点で必要な結果を得られても、「ハードウェア(組織)」の進化を考えながら「ソフトウェア(制度)」の更なるバージョンアップを図っていく、というような関係です。
このように、人事制度などの仕組み作りも、制度運用の改善や見直しも、最終的なゴールはありません。常に環境変化に感度を働かせ、継続した取り組みを心掛けて下さい。
■個と組織のバランス
これも今までお伝えしてきていることですが、“企業人事”という機能の中で、どこまで仕組みで決めて、どこから運用の中で調整していくのかということです。サッカーなどの団体競技では「個(個人技)と組織(組織戦術)のバランス」ということを言われますが、これと同じようなことです。
例えば、できるだけ細かい仕組みを決めた方が、経験不足を補う事ができ、組織人事としての質は担保しやすくなります。経験が少ない組織や未熟な人たちの集団ではメリットになるでしょう。
一方、自分で判断することは必要なくなるので、組織に属する人たちのスキルアップや、経験値を上げることにはつながりにくくなります。大きな組織で仕組みが整ってくるほど、自分で判断をしなくても済んでしまう傾向があるので、いざスピード感を持った判断が必要という時の対応は遅れがちになります。
逆に、最低限の仕組みしか決められていなかったとすると、その場その場の状況に応じた、臨機応変な対応が可能になります。個々の能力は発揮しやすいので、有能なリーダーがいれば、その人が力を発揮しやすい環境と言えます。
一方で、何事にも個人差がつきやすく、一貫性のある対応は行いにくくなります。この傾向は組織の人数が増えていくにつれて、徐々に増していきます。まちまちな対応は、社内的なことや対外的なことを問わず、相手からの信頼感を失います。
何でも規則で決められているのは、一貫性や質を担保しやすいが、画一的で硬直化した対応になりがち、かといって逆に規則がないのは、臨機応変で柔軟な対応ができるが、一貫性のなさや不公平さにつながります。
何でも仕組みで決められていることが良い訳ではなく、かといって何でもその都度対応を決めていることにも問題があります。
これは、それぞれの企業のステージに応じた、望ましい「個と組織のバランス」があるはずです。このバランスを常に意識し、現状をウォッチし続ける必要があると思います
■業績と育成につなげてこその人事制度
人事制度というのは、以前にも述べた通り「重要な経営資源である“人材”を活性化する」ということが目的です。“人材を活性化する”ということには、合わせて“人材育成”の取り組みが不可欠であり、これらは最終的な“企業業績”につなげてこそ意味があるものです。
人事制度は社内向けの仕組みであり、それが直接業績につながるものではないため、ともすれば社内的な手続き論や、内向きな仕組みの議論ばかりに陥りがちです。
もちろん制度として理屈が通っていることも、運用プロセスを守らせることも大切ですが、人事制度の目的は「公正な処遇」でも「手続きの標準化」でも「人材育成」でもありません。それらはあくまで、「人的資源を活性化するための手段」であり、その取り組みが最終的な“業績向上”につながらなければ意味がありません。
「人事制度は、人材の活性化を通じて “業績向上”を図るためにあるもの」ということを、見失わずにいることが必要だと思います。
本コラムは今回で最終回となります。雑駁な点や重複する内容があったかと思いますが、何かの参考にして頂ければ幸いです。これまで長らくお付き合い頂き、有難うございました。
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