「一勝一敗」の9月早々の重要イベントから外国人旅行客関連株で今後の相場トレンドを精査=浅妻昭治

2013年9月9日 09:37

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記事提供元:日本インタビュ新聞社

<マーケットセンサー>

  9月に相次いで到来する重要イベントは、前日8日までに2つ通過した。事前予想をクリア(勝ち)したか、クリアできなかった(負け)かで判定すると、「一勝一敗」である。9月6日に発表された米国の8月の雇用統計では、非農業部門の雇用者の増加数が、市場予想を下回ったうえに、前月7月、前々月6月の増加数も下方修正された。一方、日本時間の8日早朝5時過ぎに発表された2020年夏季オリンピックの開催都市は、目出度く東京に決定した。

  この「一勝一敗」の株価効果の判定は、星取り票に黒丸と白丸を並べて記入するようには簡単にはいかない。現に前週末6日のNYダウは、雇用統計に反応して続伸したものの、シリア情勢の緊迫化で反落して引けた。もともと米雇用統計の「一敗」は、9月17日~18日に迫った米国FRB(連邦準備制度理事会)のFOMC(公開市場委員会)で、量的緩和第3弾(QE3)の縮小に、即、スターとするか、もう少し先送りするかに影響するとみられていた。即、スタートなら円安・株高、先送りなら円高・株安とするのが大方の見方で、これは、さらにバーナンキFRB議長の後任にタカ派のサマーズ元国家経済委員長がつくか、ハト派のイエレンFRB副議長が昇格するか決定するまで尾を引くことになる。

  2020五輪の東京招致成功だって、一筋縄ではいかない。週明けの株価が、この成功を素直に受け止め、「アベノミクス」の新成長戦略の一環として歓迎高してくれれば景気・相場マインド好転として万々歳だが、寄り付きのご祝儀相場のあと利益確定売りに押される展開や、期待が高かった分だけ材料織り込み感を強めるケースもないとはいえない。何しろ、IOC(国際オリンピック委員会)の投票前のプレゼンテーションで、東京招致委員会が、「コンパクトな会場配置」をアピールし、経済効果も3兆円、雇用創出効果15万2000人と極く内輪目に試算していただけに、なかなか景気良く目玉株、リード株を導き出すのに苦労するのである。

  とくに厄介なのは、FRBの量的緩和縮小で、これが新興国経済に及ぼす影響は予断を許さない。場合によっては「アジア通貨危機」の再来も心配しなくてはならない。これは新興国経済が「フロー」主導の経済構造か、それとも「ストック」に基づく経済構造かによって、受けるマグニチュードの大きさが異なるからである。

  中国経済の減速とともに台頭したアジアの新興国経済が、米国や日本の金融緩和によって発生したバブル・マネーがアジア諸国に流入して、投資熱・投機熱を醸成したとすれば、これは「フロー」としての経済成長ということになる。そうではなく新興国経済が自立的にストックを積み上げ、成長路線を進んでいるとすれば、年内に交渉妥結の段取りにあるTPP(環太平洋経済連携協定)のサポートもあって、世界のGDP(国内総生産)の約40%、世界の全貿易額の3分の1を占める新たな経済圏の誕生につながる。まさに「アベノミクス」の成長戦略の後背地期待を高めることになる。

  「フロー」か「ストック」かと大上段に振りかぶり問題をややこしくして恐縮だが、ここは「一勝一敗」の結果となっている重要イベントに簡便に仮説を立てたうえで、有効な判定基準にしたい手っ取り早い経済統計がある。日本への外国人観光客の動向である。日本政府観光局が、8月21日に発表した7月月間の外国人観光客は、前年同期比18.8%増の100万3000人と初めて100万人台に乗せ、7月月間として過去最高となったばかりでなく、単月として今年3月の923000人を上回って過去最高となった。国別では台湾、香港、タイ、マレーシア、ベトナム、インドからの旅行客が7月として過去最高になり、台湾、香港からは単月として最高記録を更新した。

  この結果どんなことが起こっているのか?8月の大手百貨店各社の月次売上高が、2~19%も伸び、店舗によっては高額宝飾品が、30%をも上回る売り上げとなったのである。昨年11月以来の「アベノミクス」の資産効果が、今年5月の頭打ち、波乱展開で持続性が懸念されたところを猛暑特需と外国人観光客の購買力がカバーした結果である。当然、百貨店株は好感高した。

  この株価現象をウラ読みすれば、今後の百貨店株の株価を精査していけば、アジアの新興国経済が、「フロー」に過ぎない台頭で底に浅いものか、「ストック」としてフトコロが深いのか、訪日する富裕層が本当に厚みを増しているか自明となり、投資のヒントを与えてくれることになるはずだ。しかも、これに今後は、2020年オリンピック招致が加わるのである。外国人観光客関連の銘柄が、一味違う投資妙味株として浮上するケースも想定されることになる。(本紙編集長・浅妻昭治)(情報提供:日本インタビュ新聞社=Media-IR)

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