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■動機づけには意外につながらない「給与制度」
経営者の皆さんから良く聞く話として、「給料が下がったならともかく、上がっている社員まで不満や文句を言う」ということがあります。社員に頑張ってもらおうと原資を増やしたり、成果を上げた人に配慮して配分したりしているのに、反応はいまいちということも多いのではないでしょうか。
このあたりを説明する一つの例をして、心理学や行動経済学といわれる分野に「プロスペクト理論」というものがあります。
簡単に言うと「実際の損得とその感じ方が異なるということを説明した理論」ですが、この中では、例えば「損失回避性」といって、同じ額でも「利益」より「損失」の方が強く印象に残り、それを回避しようとする行動をとるということ、また「感応度逓減性」といって、損失、利益ともに額が大きくなるほどその感覚が鈍ってくるということが、実験などを通じて示されています。
これを給与に置き換えてみると、収入が増えるのはうれしいし、収入が減るのは嫌だが、金額の多寡はそれとは必ずしも比例しない、ということになります。
一度昇給した時はうれしいが、次はその昇給額を基準に考えるようになり、その額と比較して「前より上がらない(イコール損失)」という感覚になります。一度大きく給与アップしても、それ以降で同等以上のアップが続かないと、逆に不満になってしまいます。給与ダウンは嫌に決まっていますが、何度も繰り返されるよりは一度ですんだ方が良いということもいえます。
また、動機づけの手法として、「外発的動機づけ」と「内発的動機づけ」という2つのタイプがあり、「外発的動機づけ」は、アメとムチを使い分けて人を動機づけること、「内発的動機づけ」は外的な報酬が無くても、行動することで得られる楽しさや満足感による動機づけをいいます。
給与アップはまさに「外発的動機づけ」ということになりますが、これは有効性が短期的で、常にアメやムチを与え続けなければ、行動しなくなっていくといわれています。このあたりが、組織における動機づけは、行動することで得られる達成感など報酬とする「内発的動機づけ」を主体にしていくべきと言われるゆえんですし、一般の会社で社員に対して、金銭でインセンティブを与え続けることは経営的にもほぼ不可能ですから、給与に関しては不満が出てくる要素の方が強く、持続的なモチベーションにつなげづらいということは理解しておくべきです。
給与制度を組み立てるにあたっては、こんな部分も意識ながら取り組んでいく必要があるでしょう。
次回も給与制度についてのお話です。
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