(ブラジル)デモの原因はサッカーではなく、またしても「インフレ」か

2013年6月19日 09:07

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記事提供元:フィスコ


*09:07JST (ブラジル)デモの原因はサッカーではなく、またしても「インフレ」か
ブラジルでサッカー国際大会を巡るデモの広がりが世界の注目を浴びている。報道によると、首都ブラジリアなど10都市で計20万人がデモに参加し、開催中のコンフェデレーションズカップや来年のワールドカップ開催に伴う国費の無駄遣い是正などを要求。デモの大きさは過去20年間で最大規模という。

ブラジル経済は成長ペースの鈍化が著しく、一方でインフレは中央銀行のターゲット上限辺りで高止まるという「スタグフレーション」の状態にある。特にインフレ問題は深刻で、中央銀行は4月17日と5月29日の金融政策委員会で連続利上げを決定したが、5月の利上げ幅は0.50%と、市場予想を上回る大きさとなった。

先月28-29日に開催された政策委員会の議事録では「一貫して高いインフレ率」と「広範囲にわたる物価上昇」に強い懸念に言及。また、内需拡大のペースが実質国内総生産(GDP)成長率を上回っており、成長率が「潜在成長率により近づく」と指摘された。

ここでは景気拡大の基本シナリオを確認した格好だが、一方で旺盛な内需と労働市場のひっ迫見通しに基づき、賃金上昇率が生産性の伸びと整合しない水準に加速する重要なリスクがあると中央銀行は警戒。賃金動向が引き続きインフレ圧力をもたらすとの見通しがあらためて強調された。なお、失業率は4月に5.8%となり、過去最低となった昨年12月の4.6%からは若干リバウンドしたが依然として低い水準をキープしている。

また、利上げにかかわらず外国為替市場では通貨レアルの下落が継続。対ドルでは約4年ぶりの安値水準まで沈没し、これも輸入インフレ懸念を強めている。米連邦準備理事会(FRB)が早期に量的緩和策を巻き戻すとの思惑が新興国からの資本引き揚げを加速させていることが通貨安の背景だが、ブラジル政府は金融取引税(IOF)撤廃などの対策をしたが間に合わず、足元では連日での中央銀行によるレアル買い介入が伝わっている。

株式市場でも主要指標のボベスパ指数が今年1月3日の高値から20%以上下落して弱気相場入り。市況が悪化する中、セメント最大手ボトランチン・シメントスは103億レアルの新規株式公開(IPO)を見送った。実現していれば、今年に入って世界で2番目に大きなIPO案件となる運びだった。

過去にハイパーインフレという苦い経験を味わったブラジル。今回は台頭する中間層がデモの中心メンバーになったとも伝わっている。現在のマクロ環境では一段の賃上げがインフレにつながる導火線となりかねない。ブラジルは正念場を迎えている。《RS》

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