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トルコ反政府デモ、警察が排除 対立の出口が見えない理由は
11日、イスタンブール市中央の「市民の憩いの緑の場」であるゲジ公園の存続を望む、平和的で小規模な抗議行動は大規模な「反政府デモ」と化し、これを鎮圧しようとする政府・エルドアン首相側との衝突は激化の一途をたどっているという。
海外各紙はこぞって、このデモの情勢について報道。アルジャジーラも、トルコの現状と行く末を懸念する内容の記事を報じた。
【粘る市民】
今回のデモの中核を占めているのは「世俗派」「知識層」だと言われる。日中は会社などに行き、夕方になると広場に戻ってきて、陣取ることを繰り返しているようだ。排除に出ている警官隊も、昼間はのんびりとスナックをほおばったり、そぞろ歩いている様が見られるとも報じられている。
夕刻になり、人々が集まり出すと、対立が始まり、警官隊は催涙弾や放水車を駆使。市民も投石などで警官隊に対抗していると報じられている。一部の扇動的な勢力が、花火や手製の火炎瓶を使っているようだが、中核の市民は、あくまで粘り強く平和的に、エルドアン政権に対抗していく意気込みだと伝えられている。
【変わらないエルドアン首相の強硬姿勢】
ニューヨーク・タイムズ紙が伝えたところによると、エルドアン首相は10日、一旦は態度を軟化させ、12日の対話を言明したという。しかし、11日には一転、警官隊を広場に差し向け、催涙弾と放水車で市民を「一掃」する作戦に出た。
アナリストらはこの首相の言動は、デモ参加者を「歯牙にもかけない」態度を表明することで、デモ参加者を「少数異端者」に過ぎないと世間にアピールするためと分析。さらに、「首相の政治スタイルに対する憤懣」というデモの一面を抑え込み、これを支持する世論を切り崩そうとする政治的戦略の一端であると見ている。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙によれば、首相はさらに、与党公正発展党の代表に対し、「これは違法な暴動だ。それを隠蔽しようとする力が働いている」と発言。「ならず者」や「外国人」の暗躍を指摘するなど、抗議運動を隠れ蓑にして、意図的・組織的にトルコの国益を害そうとする陰謀がうごめいているとの見解を展開した。
シリアのアサド大統領に対し「国民との対話や融和」を呼びかけたはずの同首相が、まったく同じ論調で国民の声に耳をふさいでいる点を、ニューヨーク・タイムズ紙は皮肉混じりに指摘し、危険視している。
【歴史的な背景】
このように、エルドアン首相が強気を貫けるのは、敬虔なイスラム教徒や、政府との関係から多額の利益を享受しているビジネスマンらの揺るぎない支持を得ているためだとされる。
支持基盤をさらに強固にすることを狙ってか、同首相は、長らく虐げられてきた「イスラム教支持基盤」に、そうした「因縁」を思い出させるようなスピーチを展開しているという。
例えば、「(少数エリートの)世俗派は、民主主義をないがしろにしてきた。われわれを、無知蒙昧な輩と蔑み、政治も、芸術も、劇場も、映画も、絵画も、美学も、建築も、われわれには理解できないとばかりに扱ってきた」といったものだ。
しかし、こうした首相の戦略を「トルコを分断するもの」として危険視する向きもある。近代国家の建国を可能にした少数世俗派と、そうした「エリート層」の侮蔑に反発し、数を頼んだ「民意」によってイスラム寄りの政府の樹立を成し遂げた多数派イスラム教徒。その摩擦をことさらに煽れば、動乱の拡大は必至であり、いくら数の上での支持基盤が揺るぎなくても、「成長著しい国家」としてのトルコの看板に傷がつき、国外の信頼をも失いかねないとする見解だ。
【トルコの国力への影響】
こうしたトルコ情勢に対し、ホワイトハウスは懸念を示し、「アメリカは表現の自由、集会の自由、平和的抗議の自由を支持する」と表明しているという。
警官隊とデモ隊の衝突する映像が世界を駆け巡るなかで、トルコ・リラの対ドル為替レートは今年の最安値に下落。トルコ中央銀行は昨年1月以来行われていなかった介入を実施。リラ相場安定のために、5回にわたる入札で2億5000万ドル(240億円)を売ったという。
10日の時点で、死者は3名。怪我によって手当を受けた人数は4947人に上るという。強硬姿勢のエルドアン首相と、退く気配を見せないデモ参加者たちが、トルコの未来を左右しようとしている。
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※この記事はNewSphereより提供を受けて配信しています。
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