なぜトルコで大規模反政府デモが起きたのか?

2013年6月3日 20:00

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記事提供元:NewSphere

 トルコの首都イスタンブールから始まった反政府デモは、2日までに、全土90ヶ所以上に拡大し、警察に一時的に拘束された市民の数も2000人に及んだと報じられている。

 エルドアン首相は、堅調な経済の発展をもたらし、安定した社会を実現させたことから、高い支持率を誇り、10年にわたり首相を務めてきた。

 アメリカも、中東最大の同盟国の政情不安の気配に、懸念を表明していると伝えられる。

 トルコ政府にいったい、何があったのか。

 海外各紙は、デモの発端と抗議拡大の背景を報じ、トルコの現在と未来を占った。

【デモの発端と拡大の要因】

 始まりは、小さな抗議運動だったという。

 イスタンブール中心部のタクシム広場にあるゲジ公園は、市内ではまれな「緑」に触れることのできる市民の憩いの場だ。これを、政府は経済政策の一環として取り壊し、オスマン帝国時代の兵舎をモデルにした多目的ビルを建設する計画を立てている。

 これに反対する市民が、行政裁判所に訴えを起こし、先月31日には再開発計画の一時停止が命じられていた。

 その延長線上にあった穏健な「抗議運動」に火をつけたのは、警察官の強硬姿勢だったと各紙とも報じている。警察官は、丸腰の女性や老人も含まれる抗議者を、催涙ガスや放水車などを用いた容赦ない暴力で排除した。

 その映像がソーシャルメディアを通じて広がると同時に怒りの声が広がり、人々がタクシム広場に押し寄せ始めた。

 さらに、世界中でこの事件が取り上げられているにもかかわらず、国内ではメディアに規制がかかり報じられない状況に反発が高まり、トルコ全土にデモの波が広がった。

 結果、1日にはすでに、10万人以上が参加するにいたったという。

【パンク寸前だった人々の不満】

 ニューヨーク・タイムズ紙は今回の騒動の背景について、詳細に報じた。

 トルコでは、エルドアン首相が政権を握って以来、徐々に「偏り」が進んできたと同紙は分析している。西と東の中間に位置し、ゆるやかな許容によって維持されてきた風土が、多数派のイスラム教徒という支持基盤を頼む同首相によって、次第に排他的な政策に傾いていったという。具体的には、アルコールの販売禁止や、シリア内戦に対する政府の強硬姿勢、独立的なメディア組織の解体などだ。

 さらに、実利を追求するあまり、環境や多様性を犠牲にしかねない建築計画などが相次いだ。

 そうした実利一辺倒の締め付けは、特に「世俗派」を代表する、トルコ建国の父ケマル・アタチュルクの後継者を自認する知識層の大きな反発を買っていたという。

 その影響をもっとも顕著に受けたのが、トルコ最大の都市イスタンブールだったという。

 「経済発展」の旗印の下で、モスク以外、歴史的な建造物も、文化・娯楽施設も、環境も、次々に蹂躙され、もはや以前の「古都」の面影はないと、イスタンブールで生まれ育った識者は嘆いている。

 都市の再開発が進められ、機能性重視の複合施設や集合住宅が増えた。資本家の流入とともに、もともとの住民が片隅に追いやられた。貧困層が半ば強制的に住居を追われることもあった。ブルガリア移民の町では、権利関係が複雑に絡み合い所有権の主張が困難なことを理由に、警察官が大勢で押し寄せ、問答無用で不動産を取り壊したケースすらあったという。

 そうしたなかで醸成された不満が、一気に噴出したのが、今回のデモだったと見られている。特に、「知識層」という、ソーシャルメディアなどの利用に長けた人々が先に立ったことが、広がりを生んだと見られている。

【エルドアン首相は強硬姿勢を貫くか】

 エルドアン首相は、今回の騒動について、「少数派」の「暴徒」の言いなりになるつもりはないと吐き捨てたうえ、ツイッターやソーシャルメディアを「呪い」と表現。フィナンシャル・タイムズ紙は、下記のような、同氏の高圧的で自信に満ちた発言を報じている。

 「デモ隊が20万人の人々を集めるのであれば、わたしは100万人の支持者を集めてみせる」

 「(今回の騒動は)「緑」とは何の関係もない。わたしに対するイデオロギー的な反発だ」

 「(酒類の販売を禁じるのは)すべての国民を愛しているからだ。悪癖を放逐してもらいたいからだ」 

 しかしウォール・ストリート・ジャーナル紙は、今回の騒動を、エルドアン首相が初めて味わう危機だと表現。1日の晩、警官隊を引き上げさせ、デモ隊がタクシム広場を占拠するのを「許した」ことを、近来初めての同氏の「敗北」だと指摘する識者の談を載せた。

 さらに同紙は、今回の出来事によって自らの「力」に目覚めた市民は、容易に「抑えられなくなる」だろうと指摘。

 多数派のイスラム教徒の支持基盤を持つ同首相が簡単に追い落とされることはないとしても、トルコの政情における「ターニングポイント」だと分析している。

 同紙は、「月曜には仕事に行かなければならないが、晩には戻ってくる。首相に謝ってもらいたいし、わたしたちの個人的な生活や自由を尊重して欲しい」と語った30歳のエンジニアの言葉を紹介している。今回のデモ参加者の気持ちを象徴しているかのようなこの言葉は、エルドアン首相に届くのだろうか。

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