ここがポイント-会社を伸ばす中小企業の採用戦略:第9回 採用面接での留意点(1)

2011年9月25日 23:54

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 今回は、採用活動での一番中心となる採用面接について、実施にあたっての注意点などをお伝えしたいと思います。

■“仕事のパートナー探し”であることを心する
 本コラムの第2回でも書きましたが、面接官になると自分が選んでいる側であるという意識になり、ついつい“上から目線”になりがちです。しかし、採用面接は仕事のパートナーになるべき人を選ぶお見合いの場です。会社も応募者も、どちらが上も下もありません。一緒に働いていける価値観、能力、人間性を持った人かどうかを見極めることが最も重要になります。これがいびつな力関係になると、どうしても見る目が狂います。

 雇う側と雇われる側の力関係は、ともすれば雇う側である会社の方が上になりがちです。更に最近は、不況のために応募者の立場が弱くなりがちで、応募者の方が下手に出たり、会社の言い分に無理やり合わせたりということが多く出てきます。無理を長続きさせるのは難しいわけで、その結果、入社後しばらくしてから「やっぱり会社に合いませんでした」となります。イーブンな関係できちんと見極めないと、痛い目を見ることになります。

 また、こちらに合わせろと相手に要求するほど、選考に残ってくるのは気が弱い人、その時の立場が弱い人になってしまいます。そんな人材ばかりが集まる事を喜ぶ会社はあまり無いでしょう。お互いの関係性は、会社が採用できる人材の質にも影響を及ぼします。

 面接の場においては、できるだけ同等の関係を作り出す、演出するという事が、ミスマッチを防ぐ大きなポイントになります。これに反するような面接手法もありますが、このあたりは後に改めて述べたいと思います。

■面接官として必要な事
 面接官として、意識しなければならないことは多々あると思います。解説書やハウツーのたぐいは世の中にたくさん出ていますので、より深く知りたい方はそちらを調べて頂くこととして、私からはあえて三つだけ、ポイントをお伝えしたいと思います。

(1)まずは接客であると意識すること
 不遜な態度の面接官の話は、いろいろな所で見聞きします。ため息をつかれた、説教された、目も合わそうとしない、乱暴な言葉づかい、見下したような態度・・・.etc

 私から言わせればこんな話は論外で、その会社に人を採用する資格はないと思います。面接官個人の資質の問題とも言えますが、そういう人物に面接をやらせているのは会社ですから、全く言い訳になりません。(もしも自社がこのような指摘をされたとしたら、取引先や社員同士など、他の場面でも同じような事が起こっている可能性が高く、十分注意する必要があります。)

 採用活動は仕事のパートナー探しであり、企業の広報活動でもあるとお話してきました。応募者も入社しない限りは永遠にお客様です。まずは節度ある真摯な態度で応募者と接するということが、面接官として基本中の基本であろうと思います。

(2)聞き上手に徹すること
 意外によくあるのが、面接官の方が話している時間が長いような面接です。俗にいう話し好きの人が面接官になると、より顕著な傾向でそうなります。一見すると話が弾んで良い雰囲気のようですが、話し好きというのは、要は自分の話を聞いてもらいたい人が多いので、相手の事情を確認することはあまり得意としていません。事務的な確認事項すら聞き漏らしていることもあります。自分が主体で話していて、相手のことは確認しきれていないわけですから、結果の判断が、「自分の話を聞いてもらった気分の良さ」に左右されるようなケースもあります。

 面接では、受け答えの内容だけでなく、しぐさや表情、声のトーン、その他を糸口として、いかに多くの判断材料を限られた時間内で集められるかがポイントになります。そのためには、応募者にいかに多くのことを話してもらうかが、最も重要になります。進め方としては、適切な質問をいかにたくさんするか、ということになります。

 話し好きは日常のコミュニケーションを円滑にする中で力を発揮していただき、面接の場では聞き上手に徹して頂ければと思います。

(3)常に反対の側面を意識すること
 これは言い方を変えると「思い込みの強さはNG」ということです。人間なら誰でもあると思いますが、自分のツボにはまったことを、一面だけを強調してみてしまう傾向です。単純なことで言えば「スポーツをやっていたから打たれ強い」「キャプテンだったからリーダーシップがある」「○○大学だから優秀だ」というようなことです。

 総論的な傾向としてはそのように言える部分もありますが、採用活動において最終判断する上では、あくまでその人がどうなのか、個別判断の世界になります。「スポーツをやっていたから打たれ強い」と思い込んでいると、スポーツをやっていた事実だけを確認して、「だから打たれ強い」と結論づけてしまいます。

 そうではなく、例えば「スポーツにどんな取り組み方をしていたのか」「つらい事や苦しい事は何があったのか」「そもそもスポーツは得意なのか」「スポーツ以外の取り組みはどんなことをしていたのか」など、違う側面や反対の側面から聞いていくと、その思い込みを補強する要素も打ち消す要素も出てきます。それらを総合判断することが大切になります。

 「そんなことは当たり前で、とっくに意識している」とおっしゃるかもしれませんが、これを実践するのはなかなか難しいことです。こんなことを偉そうに書いている私自身でも、思い込みに陥ることがあります。同席していた他の面接官に確認したり、後でやり取りを考え直したりすることがあります。常に意識していても、それでも難しいという事です。

 “思い込み”については、「そんなことわかっている」などと言わず、常に陥らないように意識し、他人の目からも確認してもらうということを継続していく必要があると思います。

 次回も引き続き、面接を実施する際の注意点について、お伝えしようと思います。

著者プロフィール

小笠原 隆夫

小笠原 隆夫(おがさわら・たかお) ユニティ・サポート代表

ユニティ・サポート 代表・人事コンサルタント・経営士
BIP株式会社 取締役

IT企業にて開発SE・リーダー職を務めた後、同社内で新卒及び中途の採用活動、数次にわたる人事制度構築と運用、各種社内研修の企画と実施、その他人事関連業務全般、人事マネージャー職に従事する。2度のM&Aを経験し、人事部門責任者として人事関連制度や組織関連の統合実務と折衝を担当。2007年2月に「ユニティ・サポート」を設立し、同代表。

以降、人事コンサルタントとして、中堅・中小企業(数十名~1000名規模程度まで)を中心に、豊富な人事実務経験、管理者経験を元に、組織特性を見据えた人事制度策定、採用活動支援、人材開発施策、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務の支援など、人事や組織の課題解決・改善に向けたコンサルティングを様々な企業に対して実施中。パートナー、サポーターとして、クライアントと協働することを信条とする。

会社URL http://www.unity-support.com/index.html

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