相場展望6月1日 米国: 債務上限問題の妥結で、米景気後退リスク高まる、格言「5月に売れ」は当たる 日本: 外国人買いによる上昇相場も「胸突き八丁」

2023年6月1日 11:06

印刷

■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移

 1)5/29、祝日(メモリアルデー(戦没将兵追悼記念日))のため休場

【前回は】相場展望5月29日 米国: インフレ高止まり⇒高金利長期化⇒景気後退⇒債務上限問題解決も高株価反落懸念に備えを 日本: 個別株では天井を付けたと思われる銘柄増える

 2) 5/30、NYダウ▲50ドル安、33,042ドル(日経新聞より抜粋
  ・バイデン米大統領と野党・共和党のマッカーシー下院議長が5/27、連邦政府の債務上限問題を巡って合意に至った。ただ、市場の一部に議会の承認を巡って慎重な見方も残り、NYダウの重荷となった。米利上げが続けば景気を冷やすとの観測も、景気敏感株や消費関連株への売りにつながった。
  ・今回の合意で、債務上限の効力は2025年1月まで停止する。合意案は5/31にも下院で採決される見通しだが、民主、共和の両党ともに不満を抱える議員がいる。イエレン米財務長官は6/5に政府の資金繰りが行き詰まると予測する。「議会が分断しているだけに、承認を得るまでは解決したといえない」との声がある。
  ・米利上げ継続観測が高まっていることも、相場の重荷となった。リッチモンド連銀のバーキン総裁は5/30のイベントで、インフレが「多くの人々が想定する以上に頑固に続きそうだ」との考えを示したと伝わった。前週末に発表の4月個人消費支出(PCE)物価指数の上昇率は市場予想から上振れした。インフレ高止まりへの懸念が強まり、米連邦準備理事会(FRB)が6月に追加利上げを決めるとの見方が広がった。
  ・消費関連株や景気敏感株の一角が売られた。クレジットカードのビザやスポーツ用品のナイキ、建機のキャタピラー、工業製品・事務用品のスリーエムが安い。ディフェンシブ株も売り優勢で、製薬のメルクや日用品のP&Gが下げた。
  ・半面、米長期金利が低下し、相対的な割高感が薄れた高PER(株価収益率)のハイテク株に資金が向かい、顧客情報管理のセールスフォースやスマホのアップルが買われた。新製品の発表などが好感された画像処置半導体のエヌビディアが+3%高と、時価総額は初めて1兆ドル台に乗せる場面があった。電気自動車のテスラやネット通販のアマゾンも買われた。

 3) 5/31、NYダウ▲134ドル安、32,908ドル(日経新聞より抜粋
  ・米連邦準備制度理事会(FRB)の金融引締めが継続し、景気が冷え込むとの懸念が相場の重荷となった。
  ・債務上限を巡る合意案の下院での採決を5/31夜に控え、結果を見極めたいとの雰囲気が強かった。
  ・5/31発表の4月雇用動態調査(JOLTS)では、求人件数が1,010.3万件と市場予測の950万件を上回った。労働市場の底堅さを示したと受け止められ、高インフレ長期化との見方が強まった。
  ・FRBのジェファーソン理事は5/31、金融政策について、「次回米連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利を据え置くと決めたとしても、今回の利上げ局面で政策金利がピークに達したと解釈されるべきではない」との認識を示した。高インフレの定着を防ぐために利上げを再開する可能性があることを示唆し、金融引締めが続くことへの警戒感を誘った。
  ・NYダウの下げ幅は一時▲300ドルに達したが、その後は下げ渋った。債務上限の引上げを巡る法案は野党・共和党の一部で根強い反対論があるものの、可決への期待もあり、一方的な売りは手控えられた。
  ・個別では、工業製品・事務用品のスリーエムやホームセンターのホームデポが下げた。前日にかけて株価が急上昇していた半導体のエヌビディアは利益確定売りに押され▲6%安で終えた。ネット通販のアマゾンも下げた。半面、2023年4~6月期の売上高見通しを引上げた半導体のインテルは大幅上昇した。

●2.米国株:債務上限問題の妥結で、むしろ、米景気後退へのリスクが高まる

 1)米景気後退の懸念深める要因
  (1)債務上限引上げ問題を巡る妥結の結果、政府支出縮小で「米景気後退の要因」強まる
   ・妥結内容:2023年政府支出額は、2022年並みに抑える。
         2024年は+1%増にとどめる。
   ・ただし、政府支出の抑制は、需要が抑えられ「インフレ抑制」効果につながる。
   ・米国の高インフレの要因は、
   (i)バイデン米大統領による過剰なバラ撒きと
   (ii)FRBによる大規模金融緩和である。
    FRBは約1年前から「金融引締め」に転じており、米連邦政府もやっと「政府支出の抑制」に転じることになる。これで、ようやく連邦政府とFRBがインフレ抑制への足並みが揃うことになった。
   ・ただ、バイデン大統領と与党・民主党は依然として「インフレ抑制の意識が弱い」のが気懸かりである。特に与党・民主党の左派強硬派はバラ撒き政策に強くこだわっており、債務上限を巡る妥結策についても反対であり、インフレ抑制のさらなる実行の壁になっている点が気懸かりである。FRB目標のインフレ率2%に向かって、さらなる政府支出と金融引締めとその長期化が必要と思われる。

  (2)債券市場においても景気後退の意識を強く深めている。
   ・つまり、2年債利回りが米10年債利回りを上回るという異常値が続き、しかも2年・10年債利回りとの差が5/31現在で▲0.747%と拡大している状況に債券市場の「景気後退への意識」が見て取れる。
                    4/28     5/31
    ・米10年・2年債利回り差  ▲0.584%   ▲0.747

  2)相場格言「5月に売れ」は正しかった
   ・NYダウの推移   4/28    5/31   5月下落幅 5月下落率
      NYダウ   34,098ドル  32,908  ▲1,090ドル ▲3.49%

  3)米株式相場は、当面、好材料は期待できず、低迷期入りか

●3.米4月JOLTS求人件数は1,010万件、予想940万件・3月974.5万件を上回る(フィスコ)

●4.欧州経済情勢

 1)フランス経財相、今年の経済成長予測を+1%で据え置き(ロイター)

 2)独失業率、5月は予想下回る5.6%で横ばい(ロイター)
  ・厳しい経済情勢にもかかわらず、労働市場が底堅いことが浮き彫りになった。

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)5/29、上海総合+8高、3,221(亜州リサーチより抜粋
  ・値ごろ感に着目した買いが継続する流れとなった。
  ・5/29の米株先物続伸や、先週末の原油相場反発も好感された。米国では、米連邦政府の法定債務上限の実質引上げで与野党が原則合意したことが刺激材料となった。
  ・もっとも、上値は限定された。米中対立の警戒感や、中国の景気不安が重石だ。
  ・5/27に報告された1~4月の中国工業企業利益は前年同期比▲20.6%減。マイナス幅は1~3月の▲21.4%から縮小したものの、依然として低迷が続いている。
  ・業種別では、石油が相場を牽引し、発電も急伸、銀行・メディア・娯楽の一角が上昇。半面、消費関連は冴えず、素材・医薬品・不動産・保険・証券も売られた。

 2) 5/30、上海総合+2高、3,224(亜州リサーチより抜粋
  ・中国経済対策の期待感が相場を支える流れとなった。
  ・足もとでは新型コロナウィルス感染が再拡大しているほか、直近で公表された経済指標は総じて弱い内容だ。
  ・景気持ち直しを支えるため、当局は各種の対策を打ち出す、との見方が広がっている。
  ・ただ、上値は限定された。指標発表前の買い手控えなどで、指数は安く推移する場面もみられた。中国では明日5/31に5月の中国製造業PMI(国家統計局)、6/1に5月財新中国製造業PMI(民間)が公表される。
  ・人民元安の進行もネガティブ。人民元相場は5/30のオフショア市場で、2022年11月以来となる1米ドル=7.1人民元台に乗せた。
  ・業種別では、ゼネコンなどインフラ建設関連の上げが目立ち、証券・保険もしっかり、不動産・自動車・メディア・娯楽・ハイテクの一角が買わされた。半面、食品・酒造が安く、医薬品・素材・エネルギー・公益・銀行が売られた。

 3) 5/31、上海総合▲19安、3,204(亜州リサーチより抜粋
  ・中国景気の先行き不安が強まる流れとなった。
  ・朝方公表された5月中国製造業PMIは48.8に悪化し、市場予想49.5を下回った。景況判断の境目となる50を2カ月連続で割込んだ。今月に入って公表された中国指標は、総じて弱い内容だ。また、中国本土の新型コロナウィルス感染再流行や、為替市場の対米ドルの人民元安が進行していることも不安視された。
  ・業種別では、原油価格が▲4.4%安と急反落したことで石油・石炭などエネルギーの下げが目立ち、消費関連・公益・医薬品・素材・金融・海運なども売られた。半面、ITハイテクはしっかり、軍事関連・メディア・娯楽が買われた。

●2.中国製造業の5月景況感指数が2カ月連続で節目の「50」を下回る(NHKより抜粋

 1)5月製造業PMI(購買担当者景況感指数)は48.8、前月から▲0.4低下。

 2)非製造業の景況感指数は54.4と、前月から▲1.9低下したものの、5カ月連続で節目の「50」を上回った。

 3)輸出向け新規受注は47.2、前月から▲0.4下洛し、節目割れが続いている。

 4)中国経済は厳しい「ゼロコロナ」政策を終了して、サービス業を中心に回復に転じたものの、雇用の不安や節約志向が根強く回復ペースが鈍く、先行き不透明感が強まっている。

■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)5/29、日経平均+317円高、31,233円(日経新聞より抜粋
  ・米債務上限問題を巡る不透明感の後退で、運用リスクを取りやすくなった海外投資家などの買いが加速して、1990年7月6日以来の約33年ぶりの高値となった。高値警戒感も意識されやすく、上値では売りも出た。
  ・日経平均は朝方に上げ幅を+600円超に広げ31,500円台まで上昇する場面があった。米債務上限問題の協議進展期待から前週末の米株式相場が上昇する中で、5/27には債務上限の引上げでバイデン米大統領らが基本合意した。米国の債務不履行(デフォルト)の懸念が後退し、投資家心理が一段と強気に傾いた。海外勢による株価指数先物買いが牽引し、現物株を押し上げた。
  ・値嵩株の一角に買いが集まる一方で、内需株の一角には売りも出た。高値警戒感も意識されやすい中、5/29はメモリアルデーの祝日で米全市場が休場とあって午後はやや様子見ムードも広がり、高い水準での一進一退となった。
  ・ソフトバンクGが大幅上昇、アドテスト・KDDI・リクルート・三井物産も上昇した。一方、ファストリ・アステラス・資生堂が下落した。

 2) 5/30、日経平均+94円高、31,328円(日経新聞より抜粋
  ・バブル経済崩壊後の高値を連日で更新し、1990年7月26日以来およそ33年ぶりの高水準を付けた。材料に乏しく薄商いの中、午後に入ると日本株の先高観の強さを背景とした海外の短期筋とみられる株価指数先物への買いが断続的に入り、日経平均を押し上げた。
  ・外国為替市場で円相場が140円前後と円安・ドル高で推移していることも、輸出関連を主力とする日本株の支えとなった。
  ・日経平均は朝方から後場の寄り付きにかけ、下げる場面が目立った。相場の高値や加熱への警戒感から、目先の利益を確定する目的の売りが出た。5/29の米市場が休場で手掛かりを欠いたことも相場の重荷となった。
  ・先物主導の相場展開を映し大型株に買いが集中した半面、値下がり銘柄数も多かった。東証プライムの値上がり銘柄数は574、一方で値下がりは1,197と値上がりより多く、全体の6割超の銘柄が下落した。
  ・神戸製鋼・シチズン・フジクラが上げた。一方でSUMCO・帝人・デンカが下げた。

 3) 5/31、日経平均▲440円安、30,887円(日経新聞より抜粋
  ・中国の経済指標悪化を受けて世界景気の先行き不透明感が強まり、機械や鉄鋼・商社など中国関連株への売り圧力が強まった。日経平均は先日までに4日続伸し、1990年7月以来の高値を連日で更新したことで、利益確定売りも出やすく、前日比▲440円安と大幅反落した。
  ・中国国家統計局が午前に発表した5月製造業購買担当者景気指数(PMI)は前月比▲0.4低下の48.8と、市場予想を下回り、景気判断の分かれ目となる50を2カ月連続で下回った。中国景気の低迷が世界経済の減速につながるとの見方から安川電・JFE・丸紅が下落。
  ・財務省と日銀・金融庁は5/30夕、国際金融資本市場に関する情報交換会合(3者会合)を開いた。市場では140円台まで進んだ円安に対する牽制との見方もあり、この日は円安基調が一服。トヨタなど輸出関連株を中心に重荷になったとの見方があった。
  ・朝方に経済産業省が発表した4月鉱工業生産指数は前月から▲0.4%低下。民間予測の中央値は前月比+1.5%上昇で、予想に反して3カ月ぶりに低下した。日本と中国の生産停滞を警戒した売りが幅広い銘柄に広がった。アドテスト・東エレクなどこれまで相場を牽引してきた値嵩の半導体株が下落した。
  ・月間では、日経平均は5カ月連続で上昇した。5月の月間上昇率は+7.0%と、2020年11月以来の大きさだった。
  ・三菱商事・川崎汽船が安く、半面、独ダイムラー▲三菱ふそうトラックバスとの経営統合が発表された日野自は+12%高、東京海上・塩野義・アサヒも高かった。

●2.日本株:外国人買いによる上昇相場「胸突き八丁」、「相場の流れが逆転」を示唆か

 1)東証36業種を5/19~25の週間でみると、下落業種が半数を超え「相場の流れが逆転」
  ・値上がり業種数13、値下がり業種数22、変わらず1。

 2)投資主体別株式売買動向でみると、「海外投資家の突出した買い」で、注意必要
  ・4月1週~5月3週(5/19まで)の投資主体別売買(単位:億円)
   海外投資家        年金     個人(現金)  証券(自己)
   +5兆6,041億円買 ▲1兆0,576売  ▲2兆2,254売  +1,398買
  ・海外投資家の「買い」に対して、年金と個人(現金)が「売り」向かう構図が続く。
  ・証券(自己部門)の年初来の買残高は+2兆3,333億円と多額で、買い縮小。証券は、買い余裕は限界の模様のため、「売り転換」に注目したい。
  ・先物手口から、海外投資家の買いに「迷い」が窺われる。
  ・海外投資家の先物手口に、大量の買いと売りが「交錯」する流れとなった。
    5/29 +10,400枚買い ⇒ 5/31 ▲8,568枚売り
  ・海外投資家の4月1週からの買いが5兆6,041億円と極めた高水準であり、このような動きは注意を示唆していると思われる。
  ・海外投資家の一手買いだが、短期売買のため「逃げ足が速く」、「売り転換」に注意したい。

 3)5 月の日経平均は、NYダウに比べ強い騰勢となっている、また世界的にみても「独歩高」
  ・日米株価比較     4/28    5/31    騰落幅    騰落率
   NYダウ     34,098ドル 32,908   ▲1,190ドル ▲3.49%下落
   日経平均     28,856円  30,887   +2,031円  +7.04%上昇

 4)日本株は上昇可能性を内包しているが、要因は「円安」の進行とオイルマネー増加
  ・日本は貿易立国であり、企業の6割が輸出関連であり、「円安」を享受できる構図。
  ・米国・欧州は、(1)金利引上げ (2)景気後退懸念で先行き不透明で企業収益に懸念。日本は、(1)大規模金融緩和で低金利続く (2)円安が企業収益に寄与。
  ・日米の金利差は拡大し、併せて円安が進行     
             4/28   5/01   5/25   5/30   5/31
   日本10年債金利  0.375%  0.401   0.426   0.431  0.430
   米国10年債金利  3.422%  3.568   3.817   3.687  3.643
    日米の金利差   3.047%  3.167   3.391   3.256  3.213
    円相場      135.03円 136.93   139.60  140.77  139.40
    日経平均     28,856円 29,123   30,801  31,328  30,887
  ・結論:海外投資家にとって、日本株が「輝いてみえる」状態。まして、原油高で産油国のオイルマネーが増加し、資金運用難であるだけに日本株に流入しやすい環境にある。

 5)高水準の日経平均の脆弱性
  ・日経恐怖指数(VIX)は、日経平均が急伸する中、逆行高となっている。VIX指数は、4/28「15.22」⇒5/31「20.00」と上昇している。本来は、日経平均が上昇局面にあるならば「低下」すべきでものである。ところが「上昇」しているところに、高水準にある日経平均の「脆弱性」を示唆している可能性がある。

●3.4月完全失業率2.6%、3月より0.2%改善=総務省(NHK)

 1)有効求人倍率1.32倍で前月と同水準(ロイター)

●4.6月値上げ、3,600品目(テレビ朝日)

●5.企業動向

 1)三菱電機・三菱重工 発電機事業を統合、神戸に新会社設立、売上数百億円(神戸新聞)
 2)キャノン 株主還元で最大500億円の自社株買い(日経新聞)
 3)日清紡  日立国際電気を子会社化へ、株式80%取得、無線通信事業強化(時事通信)

●6.企業業績

 1)古河機金 2024/3純利益60⇒153億円に上方修正、固定資産売却益130億円(フィスコ)
 2)四国電力 2024/3期、最終利益+285億円黒字、前期▲228億円赤字(日経新聞)
 3)川崎重工 2023/3期決算訂正、貸倒引当金29億円計上(日刊工業新聞)
        間接保有の債権の一部回収不能が生じたため

■IV.注目銘柄(投資は自己責任でお願いします)

 ・4552 JCRファーマー    業績回復期待。
 ・6523 PHC         業績好調。
 ・9519 レノバ        業績好調。

著者プロフィール

中島義之

中島義之(なかしま よしゆき) 

1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。 現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。 メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。 発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou

記事の先頭に戻る

関連キーワード

関連記事