相場展望12月26日号 米国株は、来年も利上げ長期化と景気後退で逆風か 日本株は、3重苦の始まりか

2022年12月26日 10:15

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■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移
 1)12/22、NYダウ▲348ドル安、33,027ドル(日経新聞より抜粋
  ・NYダウ構成銘柄ではないが、半導体メモリーのマイクロンが12/21に発表した四半期決算や見通しが市場予想を下回り、半導体株を中心にハイテク株全般で業績下振れ懸念が強まり、NYダウも一時▲800ドル余り下げる場面があった。
  ・マイクロンは2022年9~11月期の売上高が市場予想以上に落込み、最終損益は赤字に転落した。経営環境の厳しさが意識された半導体のインテルが下げ、ソフトウェアのマイクロソフトやスマートフォンのアップルなどにも売りが波及した。
  ・米連邦準備理事会(FRB)など米欧の主要中央銀行が積極的な金融引締めを続け、長期金利の上昇や世界景気の落込みを招くとの警戒も相場の重荷となった。
  ・週間の米新規失業保険申請件数は小幅増にとどまり、米労働市場が底堅さを保てば、FRBは利上げを続けやすくなる。
  ・NYダウは前日までの2営業日で+620ドル近く上昇しており、前日に上げが目立った航空機のボーイングなど景気敏感株にも利益確定売りが出た。
  ・一方、売り一巡後は持ち高を手仕舞う動きもあり買い直され、引けにかけて下げ渋った。通信のベライゾンなど、業績が景気の左右されにくいディフェンス株の一角が上げた。
  ・クリスマス前で市場参加者が少なく、値動きが大きくなりやすかった。

【前回は】相場展望12月22日号 黒田バズーカ砲の逆襲、「金利引上げ」で日本重傷か 米FRB「市場対話型」、日銀「問答無用型」の目立つ違い

 2)12/23、NYダウ+176ドル高、33,203ドル(日経新聞より抜粋
  ・原油高を受けて資源株の恩恵を受けやすい銘柄が買われた。反面、米利上げ継続が景気を冷やすとの警戒は根強く、NYダウは安くなる場面もあった。
  ・朝発表の11月の米個人消費支出(PCE)の物価指数はエネルギー・食品を除くコア指数が前年同月比+4.7%上昇と伸び率は市場予想+4.6%より大きかった。
  ・米連邦準備理事会(FRB)による利上げが長期化するとの見方から米長期金利が上昇。
  ・金利上昇の局面で割高感から売られやすい高PER(株価収益率)のハイテク株の一角が売られ、NYダウは一時▲200ドル超下げた。
  ・午前中頃に発表の12月米消費者態度指数で消費者が予想する1年先のインフレ率が1年半ぶりの低水準となった。インフレ率は高水準ながらも縮小方向に向かうとの見方を誘い、株式の買い直しを促した。
  ・クリスマス前で休みを取る市場関係者が多く、薄商いで値動きが不安定になったとの指摘。
  ・米原油先物相場が12/23は約+3%上昇し、収益押し上げへの期待から石油のシェブロンや建機のキャタピラーが買われ、足元で売られていた化学のダウやクレジットカードのアメッ
クスが買い直され、保険のトラベラーズなどディフェンシブ株の一角も上げた。ハイテク株の多いナスダック総合も反発し、アマゾンやアルファベットが上昇した。

●2.米国株:2023年も金利上昇の長期化で景気後退懸念が強まる、株式には逆風

 1)賃金インフレ圧力と消費者物価指数の鈍化の停滞から、FRB利上げの長期化に備えを
  ・雇用の逼迫が要因となり賃金上昇が続き、賃金インフレが懸念される中で、12/22発表の新規失業保険申請件数が市場予想を下回り、雇用の底堅さを確認できた。この雇用の逼迫から、賃金インフレ圧力がまだまだ継続すると予想される。
  ・家賃は下方硬直性がある。しかも、消費者物価指数に占める割合は3割程度といわれており、高騰した新築住宅建設費は家賃更新時に跳ね返る。その家賃改定は2年毎が多いため、今後も家賃上昇が続く見込みであり、家賃低下にはつながらず、インフレ圧力が継続すると思われる。また、新築住宅数は住宅ローン金利が2%台から7%台へと急騰して落ち込んでいたが、住宅ローン金利が6%台に下落するに併せて増加に転じた。新築住宅数の増加も住居費を上昇させる要因となる。
  ・原油価格や資源価格は、欧米や中国の景気後退懸念から需要が減少するとの思惑で先物価格が下落していた。足元では、OPECプラスも財政状態から原油価格を高止まりさせるため、減産政策を打ち出すだろう。また、ロシアも制裁に対抗するための減産する動きをしている。EV(電気自動車)は銅需要を高め、資源価格を押し上げる。国際商品先物価格指数(CRB)も低下から上昇に転じ、再びインフレ圧力を強めるだろう。
   WTI原油先物価格  10/7 93.2ドル ⇒ 12/8 71.46 ⇒ 12/23 79.35
   CRB指数      11/4 287.55 ⇒ 12/7 265.89 ⇒ 12/23 278.11
  ・このことから、FRBは金融引締め政策継続をせざるを得ず、景気がさらに冷え込む懸念が強まると思われる。

 2)NYダウは、まだ下げ余地がありそう
  ・9/30 28,725ドル ⇒ 11/30 34,589 ⇒ 12/23 33,203
        上昇幅 +5,864     下落幅▲1,386
                     上昇幅に対した下落率▲23.6%

  ・9/30底値からの上昇幅に対する下落率は▲23.6%で、底に届いていないと思われる。
   チャート的には、NYダウ株価は依然として高水準にあるといえる。

  ・2023年初にクリスマス休暇から戻った市場参加者の動向に注目したい。

●3.米新規失業保険申請件数21.6万人、前週比ほぼ横ばい、歴史的な低水準付近(ブルームバーグ)

●4.株式で過去最大の資金流出、12/21までの1週間、2008年以降最悪の1年を象徴(ブルームバーグより抜粋

 1)流出額は、バンク・オブ・アメリカ、シティ、バークレイズの3行によるもので、1週間では過去最大の約▲420億ドル(約▲5兆5,700億円)。

 2)通年では株式は依然、+1,665億ドルの純流入。投資家はまだ完全には降参していないことを示唆し、2023年の相場は一段安となる可能性がある。

 3)債券ファンドは通年で▲2,570億ドルの純流出。

 4)バークレイズはリポートで、「2022年の問題の多くは解決されておらず、投資家は値動きの荒い新年を覚悟すべきだ」と警告。「インフレ対リセッション(景気後退)の議論や企業業績の見通し、中国経済再開とウクライナ紛争が引続き市場の関心を集めるだろう」と指摘した。

●5.テスラのマスク氏、株の信用取引に警鐘「集団パニック」のリスク (ブルームバーグ)

 1)「不安定な株式市場で証拠金負債を持たないこと。下降相場ではかなり極端なことが起こる」と主張した。

 2)リセッション(景気後退)が間近で、2009年規模の景気悪化になる、との見解を示した。1年~1年半、嵐の時期があり、その後、だいたい2024年4~6月ごろに夜明けを迎える。好況は永遠に続かない。リセッションも同じ。

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)12/22、上海総合▲13安、3,054(亜州リサーチより抜粋
  ・新型コロナ感染拡大が投資家心理の重石となり、6営業日連続下落、約1ヶ月半ぶり安値。
  ・感染者が急増した上海市などでは、医療体制と医薬品が逼迫し、従業員の感染で休業を余儀なくされる企業が相次ぐ状況だ。
  ・また、中国本土の機関投資家(銀行、投信会社など)に欠勤者が急増し、株式・為替などの各金融市場では商いが細っているという。
  ・リオープン(経済再開)が進んでいる点はプラスとなるものの、その反面、感染者増の悪影響も指摘されている。
  ・中国経済対策の期待感が根強い中、指数は小高く推移していたが、引けにかけてマイナスに転じた。
  ・業種別では、発電の下げが目立ち、石炭・医薬品・素材が売られ、消費関連が買われた。

 2)12/23、上海総合▲8安、3,045(亜州リサーチより抜粋
  ・前日までの軟調な地合を継ぐ流れとなり、11/10以来の約1カ月半ぶりの安値を付けた。
  ・中国国内各地で新型コロナ感染爆発が発生する中、経済活動の混乱も危惧された。上海や北京など主要都市で人流が減少し、一部の商業施設や工場などは時間短縮や休業を余儀なくされている。ただ、大きく売り込む動きは見られない。
  ・指数はこのところ下げが急ピッチだったこともあり、値ごろ感に着目した買いも散見。
  ・業種別では、自動車の下げが目立ち、石油・アパレル・靴が売られ、医療機械は物色。

●2.WHO事務局長、コロナ感染拡大の中国に懸念(TBS)

●3.中国、2億5,000万人が「すでに感染した」とする内部文書「流出」か、複数メディア(ABEMA)

■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)12/22、日経平均+120円高、26,507円(日経新聞より抜粋
  ・前日までの5営業日で▲1,700円超下げていたため、自律反発狙いの買いが優勢だった。
  ・日銀の緩和修正後に下げが目立った不動産や自動車株などが買い戻された。
  ・12/22の香港株や台湾株が上げたことも支えになった。
  ・ただ、取引開始直後に26,500円台後半まで上げた後は、伸び悩む展開だった。クリスマス休暇で海外投資家の動きが鈍いことに加え、日銀の金融政策の先行きを見極めたいと、積極的な買いは入りにくかった。
  ・朝方は堅調だった半導体関連株が下げに転じるなど、戻り売り圧力の強さも意識された。前日までの下げの大きさに対し、日経平均の戻りは小幅にとどまった。
  ・川崎汽船が+5%高、三井不・三菱地所・三菱UFJ・三井住友FGが上げ、ニチレイが下落。

 2)12/23、日経平均▲272円安、26,235円(日経新聞より抜粋
  ・前日の米ハイテク株安を背景に運用リスクを回避する売りが優勢だった。海外短期筋による株価指数先物への売りが膨らみ、午前に下げ幅は一時▲400円を超えた。トヨタやホンダなど自動車株への売りも続いた。
  ・前日の米株式市場でハイテク株比率が高いナスダック総合株価指数は反落し、一時は10月に付けた年初以来安値を下回った。12/21夕に半導体メモリーのマイクロンが発表した四半期決算や見通しが市場予想を下回り業績懸念から半導体関連が軒並み下落した。東京市場でも東エレクやアドテストなど日経平均の影響度が大きい銘柄の下げが目立った。
  ・足元で下げ局面が続いているため、売り一巡後は自律反発を見込んだ買いが入り下げ幅を縮小した。週末とあってこのところ積み上げてきた売り持ち高を解消する動きも出た。午後に入ると、新規の売買材料に乏しく、狭いレンジでの推移が続いた。
  ・エーザイ・日東電工・郵船など大手海運株が安い。東京海上・MS&D・ふくおかFGなど金融株は上昇。三菱UFJ・三井住友FGは年初来高値を更新した。

●2.日本株:3重苦

 1)日本株の3重苦の要因
  (1)円高に転換
  (2)日銀の事実上の金利引上げ開始
  (3)米国株軟調

 2)日経平均の推移
  ・11/24高値28,383円 ⇒ 12/23 26,235
           下げ幅▲2,148円下落、下落率▲7.6%安
  ・日経平均の下落率がNYダウの▲4.0%より大きいのは、日銀の事実上の金利引上げ効果が大きい。

 3)テクニカル指標は「売られ過ぎ」を示唆、NYダウと比べても「売られ過ぎ」
  ・騰落レシオ(6日)は50.23。
  ・ストキャスティクスは、RSIが25,FASTが8、SLOWが8。
  ・移動平均乖離率は、25日が▲5.23%、200日が▲3.70%。

 4)テクニカル指標は「売られ過ぎ」だが、状況を見ると「買い出動できない」
  ・円高に転換しており、輸出企業の採算悪化で企業業績に不安が生じた。輸出が企業の想定レートは1ドル=130円。来年にも日銀の第2波の事実上の利上げが予想され、予想為替110~120円とみる。
  ・中国経済のコロナ感染急拡大はとどまるところが見えず、1月後半からの春節(旧正月)でさらなる感染拡大が予想され、中国経済の混乱ぶりを現段階では推定できない。
  ・欧米の経済悪化影響も読みにくい。2023年のOECDの米国・ユーロ圏の経済成長率予測は+0.5%となっている。+0.5%程度にまで低下しているということは、わずかなショックでマイナス成長に陥ることを示唆している。このため、欧米の経済成長と米株式の動向を注視する必要が出てきた。
  ・海外短期筋による先物相場での売越しが続いている。
  ・日銀の来年3月までの決定会合で事実上の再利上げが想定される。11月消費者物価指数(生鮮除く)が+3.7%と上昇してきており、日銀の目標+2%を大きく超えた。日銀新総裁にとって、このインフレ圧力をどう評価するか注目したい。
  ・よって、「様子見が必要」と思われる状況下での「買い出動は早過ぎる」可能性がある。

●3.日銀は来年1月に再び市場を驚かす可能性=「ミスター円」榊原氏(ブルームバーグより抜粋

 1)日銀は10年物国債利回りの上限を、次回会合で再び引上げる可能性があるとの見方を示す。

 2)日銀の超緩和策後退に伴い円が1ドル=120円まで上昇するとみている。

●4.11月消費者物価指数(生鮮食品除く)は前年比+3.7%上昇、40年11カ月ぶり水準(NHK)

●5.世界のGDPに占める日本の割合が最低に(テレ朝)

 1)日本の2021年の名目GDP(国内総生産)が5兆ドル、世界に占める割合が約5%と、比較可能な1994年以降で最低となった。世界全体に占める割合は、米国24%、中国18%に対して日本は5%と3位に減少した。

 2)1人当たりでは4万ドルと前年より▲0.5%減少、OECD(経済協力開発機構)に加盟する38カ国中で20位とフランスに抜かれ、1つ順位を下げた。

 3)要因は、前年より円安。ドル高が進んだことに加え、新型コロナ感染拡大で個人消費が低迷したことなどが影響したと見られる。

●6.来年の食品値上げ7,000品目超突破、値上げの動きが長期化へ(帝国データバンク)


■IV.注目銘柄(投資は、ご自身の責任でお願いします)

 ・4452 花王    業績堅調。
 ・8267 イオン   業績堅調。

著者プロフィール

中島義之

中島義之(なかしま よしゆき) 

1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。 現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。 メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。 発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou

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