相場展望2月28日号 短期侵攻なら下落は一過性、本丸は金融引き締め 長期侵攻なら、原油・農産物高騰でインフレ加速

2022年2月28日 09:45

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■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移

 1)2/24、NYダウ+92ドル高、33,228ドル(日経新聞より抜粋
  ・ロシアのウクライナ侵攻で投資家心理が悪化し、朝方に▲859ドル安の場面があったが、年初から下落基調だったハイテク株に押し目買いが入り、押し上げた。
  ・ハイテク株の上昇は、「業績が世界景気の影響を受けにくい」「噂で売って、事実で買いという株式相場の典型的な動き」との指摘があった。
  ・ロシアのサイバー攻撃への警戒感から、セキュリティ対策の需要が高まるとの見方からソフトウェア株が買われた。
  ・セールスフォース+7%高、マイクロソフト+5%上げ、この2銘柄でNYダウを+180ドル余り押し上げた。反面、景気敏感株の売りが目立ち、金融株も下げるなど、利益確定売りに押された。

【前回は】相場展望2月24日号 プーチン、現在「何も得られず」⇒「紛争拡大」 米FRBは、ウクライナでより困難な舵取りへ

 2)2/25、NYダウ+834ドル高、34,058ドル(日経新聞より抜粋
  ・地政学リスクの高まりで、NYダウは2/23までの4営業日で▲1,800ドル余り下落していたが、ロシアがウクライナとの停戦交渉に応じる構えを示し、紛争の長期化が避けられるとの期待が高まり、NYダウの上昇幅や上昇率が今年最大となった。
  ・ただ、「事態は流動的であり、不透明感が漂ったままだが、米株は売られ過ぎとたて買いが幅広く入った」といい、NYダウ構成30銘柄のすべてが上昇した。
  ・ハイテク株が買われ、続いて景気敏感株やディフェンシブ株にも買いが広がった。
  ・ロシアは隣国ベラルーシの首都ミンスクに代表団を送り、交渉に臨む用意があると2/25に伝わった。
  ・スリーエム・ハネウェル・ゴールドマンサックスが上げ、石油のシェブロンは下落。
  ・もっとも、売り方の買戻しや、短期的な押し目買いで、相場は急伸したものの、投資家の先安懸念はくすぶったままで、投資家心理が高まりを示すVIXは20を大幅に上回った27.59となっている。

●2.米国株 ウクライナ短期侵攻なら相場には一時的影響、本丸は金利引上げ・資産縮小

      ウクライナ長期侵攻なら株価2/25上昇は「だまし」?
 ⇒さらなるインフレ上昇要因で、金融引き締めと景気後退へ

 1)2/24~25の株式相場は、ロスチャイルド格言「戦争噂で売り、砲声が聞こえたら買い」の通りとなった。

 2)ロシアのウクライナ制圧が手間取る見通しが出ると、「逆回転し、大幅下げ」の可能性

 3)欧米のウクライナ支援が急ピッチで進む
  ・短期決戦を目論んだプーチンの計算に狂いが生じる。
   ⇒ 泥沼に入ると、かつての露のアフガン侵攻失敗の二の舞い。
  ・欧米から軍事支援を受けたウクライナの地の利を活かしたゲリラ反撃必至。
  ・露はウクライナの点(都市)確保にとどまり、面(国土)占拠には軍隊が少ない。(ウクライナ人口は41.5百万人と多く、旧日本軍の中国本土侵攻と相似)
  ・長期化すると、露軍に厭戦気分充満、ウクライナは意気軒高で結果が見える
  ・賠償責任は露の負担となり、露国民に重圧。
   ⇒ 「核使用」をプーチン氏が言及したことで、国際社会からの反発と孤立化必死。
   ⇒ 欧米のSIFTから排除され、欧米も痛手だが、それ以上に返り血を浴びるロシア
   ⇒ プーチン政権が露国内でも苦境に。(インフレ高騰、輸入低下で物不足、国家財政の逼迫、国民の不信、軍部の不満)

 4)ウクライナ侵攻の早期決着を見込んだ「買い」が入り2/25は急伸したが、長期戦になりそうだと市場参加者の心理が転換すると「逆噴射の売り」に警戒したい。

 5)長短金利差(2年vs10年)は危険水準の0.3%に接近し、黄色信号が点滅。

 6)欧米がロシア制裁を強めれば、資源・穀物などの供給国側の混乱を招き、価格高騰することで、インフレが加速し、世界景気を冷やすことになるという副作用がある。
  ・大豆先物、シカゴ市場で2/24には9年ぶりの高値(フィスコ)

 7)金利は想定以上に上昇するだろう。
  ・インフレの高進が長期化。
   要因:(1)生産性を上回る賃金上昇。
      (2)物価指数で大きなウエートを占める住宅賃料の大幅上昇、下落硬直性。
      (3)サービス価格の上昇。
  ・インフレ率は前年比で1月+7.5%、2月も+8%観測がある。一方、FRBの目標インフレ率は+2%で、現状は目標の3.75倍となっている。
  ・ウクライナへのロシア侵攻で、金利引上げ後退説が出ているが、むしろ逆になると思われる。小麦・トウモロコシなど農産物価格上昇、パラジウムなど鉱物価格急騰・原油価格のさらなる急伸が加わり、さらなるインフレ高進となろう。過去を見ると、WTI原油先物は140ドル近辺までの上昇もあり得る。
  ・FRBは「インフレ抑制」に舵を切ったが、現在のインフレ率は目標の2%と比べると約4倍。この4倍となった水準からの「インフレ退治」となると、単に利上げ策では間に合わない。中間選挙11/8の前に結果を出さないといけないパウエルFRB議長は、
   (1)政策金利引上げ
     ・3月は0.25%でなく、0.50%引上げ、以降はFOMCごとに0.25%ずつ引上げて、2022年末には合計で1.75%引上げになると予想。
     ・2023年も利上げで、年末には3%水準もあり得る。
   (2)資産縮小
    ・中間選挙とバイデン大統領に支持率回復を狙った即効性あるインフレ抑制のためには、7月FOMCで、バランスシート縮小も、金利引上げに加えて実行する、と予想した。
    ・そのバランスシート縮小も、国債償還分だけではなく、償還額を上回る縮小を選択するとみている。
   (3)金利引上げと資産縮小によって、中間選挙で民主党勝利への道筋をパウエルFRB議長は付けたと思いたいだろう。ところがオーバーキル政策が、相場に襲い掛かってくる可能性が高いと思われる。

●3.ウォラーFRB理事、3月利上げは0.5%引上げ、2022年央までに1.0%引上げを望む

 1)理由: 
  ・40年ぶりの高水準に達したインフレを抑制するため。(ブルームバーグより抜粋
  ・「米経済が完全雇用状態にあり、インフレは目標を大きく上回ており、FRBは速いペースで金融政策を中立に戻すシグナルを送るべき」と付け加えた。
 2)内容:
  ・2022年央前に金利を1.0%引上げ。
  ・7月FOMCまでに、FRBバランスシートの圧縮に着手する。

●4.米MMFに、2/23までの週に、59.8億ドルが流入、ウクライナ危機で資金逃避(ロイター)

●5.米10~12月期GDPは+7.0%(フィスコ)

●6.米新規失業保険申請件数23.2万件、予想23.5・前回24.8から改善(フィスコ)

●7.ウクライナへの侵攻は、プーチンの「核」発言もあり、泥沼化し長期戦もあり得る

 1)ロシアは2/24、ウクライナ北東部の国境の飛行ルートの禁止を通知(CNN)

 2)ウクライナに侵攻が始まったか、軍事施設にミサイル、首都で爆発音続く(朝日新聞)
  ・2/24未明、激しい爆発音が聞かれた。
  ・内務省当局者は、ロシア軍は北東部ハリコフ州の国境を越え、黒海の港湾都市オデッサにも上陸を開始した、と明かした。

 3)バイデン大統領は2/23、「ロシアは破滅的な戦争を選んだ」と表明(朝日新聞)
  ・2/24朝、G7と協議し、ロシアに追加制裁を課す。

 4)原油価格が一時100ドルに上昇、ロシアの軍事作戦を受けて(読売新聞)

 5)ウクライナ大統領は2/24発表、ロシアと「断交」(産経新聞)

 6)モスクワ証券取引所では前日終値比▲50%安、ルーブルは▲11%急落(読売新聞)

 7)ロシアは、ウクライナ港湾で商業船舶の航行を停止し、穀物の輸送が停滞(ロイターより抜粋) 
  ・シカゴ市場では小麦先物が+5.6%高。2012年半ば以来の高水準となった。
  ・ロシアとウクライナは、世界の小麦輸出の28.5%、トウモロコシ18.7%、ひまわり油80%を占めている。

 8)米、新たにロシアの大手銀行を制裁対象に追加(テレ朝より抜粋
  ・ドル資金の調達が出来なくする。
  ・米国内の資産凍結。
  ・半導体などハイテク製品の輸出禁止。
  ・ただし、SWIFT(国際的な銀行間送金ネットワーク)からロシアの銀行を排除する制裁案は今回見送り。

 9)ロシア進軍は減速と米国防総省高官、ウクライナ軍の抵抗続く(共同通信)
  ・米国防総省高官は2/25記者団に、ロシア軍の首都キエフなどへの侵攻速度が当初予測より遅いと述べた。ウクライナ軍の指揮命令系統は損なわれておらず、各地で抵抗が続いている。
  ・高官は、ウクライナのゼレンスキー政権の打倒というロシア側の目的は変わっていないと、指摘した。

 10)ウクライナ危機とサプライチェーンが混乱、現地工場の操業停止相次ぐ(ブルームバーグ)
  ・たばこ、自動車、飲料などを生産する工場が停止。
  ・日本たばこ産業、住友電工、丸紅など

 11)プーチンの目的は、ウクライナの「国土分断」と「傀儡政権」樹立 (ロイター)

 12)ウクライナ大統領が2/26、徹底抗戦を表明=地元通信社(共同通信)

 13)米独、ウクライナに対空ミサイルなどを提供の方針を表明(読売新聞)
  ・独シュルツ首相は、ウクライナに対戦車砲1,000門、携帯式地対空ミサイル500基を提供すると発表した。従来の方針から大転換。(テレビ朝日)
  ・米国防総省は2/26、ウクライナに3.5億ドル(約400億円)の武器供与を決定。小型武器・弾薬・防弾チョッキなど。(ブルームバーグ)

 14)欧米は、SWIFT(国際銀行間通信協会)からロシアの一部銀行を排除で合意(ロイターより抜粋
  ・独政府報道官が2/26発表、米国・フランス・カナダ・イタリア・英国・欧州委員会が合意した。
  ・SWIFTから排除されると、ドル建てでの送金や決済が困難になる。(テレ東)
   SWIFTは、200超の国・地域の11,000社超が利用している。取扱額は1日で5兆ドル(約575兆円)。(NHK)
  ・欧州委員会と仏独伊英加米は、「我々はロシアに責任を負わせ、この侵略がプーチン大統領の判断が失敗であることを確実化する」とした。(ブルームバーグ)

 15)米欧が2/26に追加制裁、ロシアのTWIFT排除で合意(ロイターより抜粋
  ・ロシア制裁には、ロシア中央銀行の外貨準備への規制も含まれ、数日内で実行。
  ・SWIFT排除で、世界金融取引が出来ず、ロシアの輸出入の大半が止まる。
  ・欧州委員会のフォンデアライエン委員長発言
  ・ロシアが「軍資金に使うのを阻止」するために、ロシア中央銀行の取引を凍結し、換金できないようにする、と述べた。
  ・「ロシアの新興財閥が我々の市場で金融資産を使うことを禁止する」とした。なお、ロシアの新興財閥はプーチンと親密な関係にあり、豊富な資金を背景に英国の市民権などを取得している。

 16)プーチン大統領は2/27に核部隊に厳戒態勢命令、米・NATOは反発(ロイター)

 17)EUは2/27、EUの全空域でロシア航空機の飛行禁止、ロシアも対抗措置(ロイター)
   EUは、ロシア国営メディアによる偽情報のかく乱防止のため報道禁止
   EUは、ウクライナ侵攻を支援したベラルーシにも制裁方針と表明(時事通信)

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)2/24、上海総合▲59安、3,429(亜州リサーチより抜粋
  ・東欧地域の地政学リスクが意識された。
  ・ロシア軍が2/24、ウクライナに対して軍事行動を開始したことを受けて、欧米が猛烈に非難し、一段の制裁が予測され、世界経済の混乱を危惧された。
  ・原油・非鉄・穀物などの商品が急騰したことも、景気の下押し圧力になると懸念。
  ・中国本土の一部地域で新型コロナ感染が散見するなか、社会活動の制限が続いていることもマイナスになっている。
  ・業種別では、消費関連の下げが目立ち、不動産・医薬品・ハイテクが売られた。反面、石油・石炭・軍事関連が買われた。

 2)2/25、上海総合+21高、3,451(亜州リサーチより抜粋
  ・中国経済対策への期待感が相場を支える流れとなった。
  ・中国では来週末の3/5、全国人民代表大会(全人代)を開催する。景気テコ入れに向け、各種の方針が打ち出される見通しだ。
  ・もっとも、上値は限定的。
  ・ウクライナ情勢の不透明感が根強いなか、世界経済の混乱も警戒している。
  ・業種別では、発電の上げが目立ち、医薬品・ITハイテク関連がしっかり。反面、石油・石炭が冴えず、金融・不動産などが売られた。

■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)2/24、日経平均▲478円安、25,970円(日経新聞より抜粋
  ・東京株式市場は、1月に付けた26,170円を下回り、2020年11/20以来の安値。ウクライナ情勢を巡る地政学リスクが一段と強まったのを嫌気した売りが優勢。
  ・ロシア軍の攻撃開始が伝わり、一段安となり一時▲670円まで拡大した。
  ・ロシアは、ウクライナ東部で親露派が実行支配する地域の独立承認・派兵を決定。
  ・朝方から、運用リスクを回避したい投資家の売りが、輸出関連株を中心に出た。
  ・後場、下げ足を速め、日経平均は心理的節目の26,000円をあっさり下回った。
  ・昼過ぎに、ロシア軍がウクライナの軍事施設へのミサイル攻撃開始が伝わった。
  ・商品投資顧問(CTA)など、海外の短期筋が先物を断続的に売りを出し下押しした。
  ・26,000円を下回った水準では年金基金など長期投資家の買いが入り下支えした。
  ・ソフトバンクGが大幅安・フジクラ・古河電・AGCが売られ、INPEXが買われた。

 2)2/25、日経平均+505円高、26,476円(日経新聞より抜粋
  ・前日まで5営業日に▲1,400円超下げていたため、主力銘柄に値ごろ感からの買い  と、売り方の買戻しが主導し、上げ幅を広げた。
  ・対露制裁が世界経済への影響は限られるとの見方が株買いにつながった面もある。
  ・東エレク・アドテスト・スクリンといった半導体関連の上げが大きく押し上げた。海運・空運の上昇も目立った、反面、食品・電力などのディフェンシブが売られた。
  ・ウクライナ情勢を巡っては不透明の面があり、短期筋による持ち高調整が多かったとの指摘があった。

●2.日本株:2/25の日経平均は+505円高と急伸したが、注意

 1)2/25は大幅上昇で、ほとんどの銘柄が上がったと思わせた。

 2)ところが、値上がり銘柄数は1,325銘柄で、値下がりが780銘柄と思いのほかの結果。これだけの上昇幅があると、値上がり銘柄数は2,000銘柄近辺まであるもの。日経平均上昇寄与の高い銘柄上昇が要因で、腰が据わった上げ転換とは見えない。

 3)下げ過ぎたなかで、米国株高に連動した買い仕掛けと買戻しによるものかもしれない。上昇か、さらなる下げかの分岐点になりそうだ。本日2/28は、米国株の大幅上昇を受け、値上がりが期待される。しかし、ウクライナ短期収束期待から株価反発したが、長期化の恐れも出てきており、注意したい。

●3.次世代半導体開発、2030年に電力ロス半減、東芝、デンソー(日経新聞)  

●4.企業動向

 1)トヨタ  1月国内生産は前年比▲32%減(共同通信)
 2)明星食品 カップ麺など6/1から、6~12%値上げ(TBS NEWS)

■IV.注目銘柄(投資は自己責任でお願いします)

 ・2413 エムスリー  業績好調
 ・7912 大日本印刷  業績好調
 ・9843 ニトリ    業績堅調

著者プロフィール

中島義之

中島義之(なかしま よしゆき) 

1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。 現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。 メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。 発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou

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