45億年前の月誕生物語 コンピュータシミュレーションで明らかに

2021年3月29日 18:59

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満月の様子。

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 3月中旬にアメリカで、第52回月惑星科学会議が開催された。太陽系の天体に関する各国の研究者たちが集まる、世界最大級の国際学術会議の1つだが、この会議で月誕生に関する興味深い研究発表が、アリゾナ州立大学の研究者たちによってなされた。

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 今から45億年前、つまり地球が誕生してまだ間もないころに、惑星ティア(この惑星の存在を現在確認する術はなく、あくまでも仮想上の存在である)が地球に衝突し、その結果、月が誕生したというジャイアントインパクト説が多くの科学者たちから支持されており、一般人にもよく知られている。今回の発表では、ティアがどのような惑星で、当時の地球にどのような影響を与え、現在のような地球と月の姿をもたらしたのかについて、明らかにされたのだ。

 現在、地震学的見地から、地球内部のマントル奥深くには、2つの大陸サイズの巨大な岩が埋没している可能性が示唆されている。これは西アフリカと太平洋の下に存在し、月の質量の6倍ほどの質量があると考えられ、研究者らはこれをLLSVPと呼んでいる。

 また、アポロが月面から持ち帰った岩石サンプルのいくつかは、地球の岩石よりも重水素の含有率がはるかに高いことがわかっている。このような現状がどのようなメカニズムでもたらされたのか、そのプロセスを説明するため、惑星ティアのモデルをイメージしたコンピューターシミュレーションが試みられ、その全貌がかなり鮮明にされている。

 月に重水素が多く存在している理由は、惑星ティアが、水素を引き止められるだけの大きな引力を持っていたことを示唆しているという。ティアと地球が衝突した際、水のような揮発成分は宇宙空間に飛散し、ティアの表層の地殻は地球の引力によって引き止められ、LLSVPとなってマントル内部に残留。空中に飛散したティアの内部の残骸が集まり、現在の月を形成していったのではないかと、結論付けられている。

 この説により、月が乾燥しており、鉄の含有率が少ないこともうまく説明がつく。また、前出のLLSVPの質量から考えて、ティアの規模は火星より大きく、地球により近いものであったのではないかと研究者らは推論している。月と地球の組成がかなり異なる理由は、惑星ティアの組成が地球と大きく異なるものであったと考えれば、一般人にも合点がゆくというものだろう。(記事:cedar3・記事一覧を見る

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