関連記事
常識外れの発見 誕生間もない宇宙に銀河を覆うほどの巨大な炭素ガス雲が存在
アルマ望遠鏡で観測した18個の銀河の炭素ガスのデータを重ね合わせ(赤色で表示)、ハッブル宇宙望遠鏡による銀河の星の分布画像(青色で表示)と合成した画像。炭素ガスが星の分布よりも大きく外側まで広がっていることがわかる。(c) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), NASA/ESA Hubble Space Telescope, Fujimoto et al.[写真拡大]
私たちの宇宙はおよそ138億年前に誕生したことはよく知られている。最初に存在したのは水素で、ビッグバンによる10億度程度の高熱よって、ヘリウムとごく微量のリチウム、そしてベリリウムが生成された。
【こちらも】宇宙初期に誕生した銀河は今よりもずっと明るかった NASAの研究
しかしながら炭素が形成されたのはビッグバンの時ではなく、宇宙に銀河が誕生し、銀河の中にある恒星内部の核融合によるもので、恒星の寿命の最後に起こる爆発によって、宇宙空間にばらまかれたと考えられてきた。したがって、銀河が誕生した直後にあった恒星が作り出した炭素は、その恒星が存在していた周辺のごく狭い範囲の宇宙空間にしか存在しないだろうと考えられてきた。
ところが、東京大学宇宙線研究所の藤本征史氏らの国際研究チームによって、誕生から約10億年程度しか経過していない時代の銀河の周辺に、半径3万光年にも及ぶ巨大な炭素ガス雲が存在していたことが明らかにされた。
この巨大な炭素ガス雲の存在を捉えたのは、アルマ望遠鏡である。アルマ望遠鏡は南米チリの標高5000mの高地に、22の国と地域が協力して建設した口径10mクラスのパラボラアンテナ66器からなるミリ波干渉計で、理論上は直径16kmの電波望遠鏡に相当する解像度を有する。この能力を分かりやすく表現すると、東京にいる人が大阪に落ちている1円玉を見分けることが可能な実力があるという。
宇宙は、ビッグバンによって誕生して数億年後に、最初の銀河が誕生したものと考えられ、アルマ望遠鏡で捉えることのできる最も遠い銀河がそれに相当する。つまり、約130億年前に誕生した銀河の電波が130億年かかって地球に到達し、アルマ望遠鏡によって捉えられているのだ。
今回の発見が常識外れであったのは、恒星の周りのごく狭い空間ではなく、銀河を覆うほどの規模を持つ巨大な炭素ガス雲の存在が確かめられたことで、炭素の形成機構が、現在考えられている恒星内部の核融合反応だけにとどまらない可能性が示唆されたことにある。
宇宙の進化のプロセスが、現在考えられているようなものとは異なることがこの発見で明らかになったが、なぜ銀河の周りを取り巻く形で巨大な炭素ガス雲が分布しているのかについては、まだ謎のままである。ただ間違いなく言えることは、現在人類が考えているほど、宇宙の進化は単純ではなさそうであるということである。(記事:cedar3・記事一覧を見る)
スポンサードリンク