バイオリンの名器ストラディバリウスの音は人間の声の模倣 台湾の研究

2018年5月24日 20:47

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イタリアで展示されているストラディヴァリのヴァイオリン。(c) 123rf

イタリアで展示されているストラディヴァリのヴァイオリン。(c) 123rf[写真拡大]

●国立台湾大学によるバイオリンの名器の研究

 米国科学アカデミー紀要 (pnas) に掲載された国立台湾大学の研究によると、イタリアで数世紀前に制作されたバイオリンの名器は、その音が人間の声を模倣しているとしている。研究チームを率いた神経科学と化学が専門の戴桓青教授は、音楽愛好家としても知られている。

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●16世紀に生まれた「現代のバイオリンの原型」

 16世紀から18世紀にかけて、イタリアのクレモナで制作された「アマート」や「ストラディバリウス」は、現代の演奏家たちも「完璧な音」と評価をする名器として知られてきた。とくに、16世紀の楽器制作者アンドレア・アマーティは4弦のバイオリンの考案者であり、当時普及していた既存の楽器とは一線を画したバイオリンを製作した。その後、フランソワ・シャノーやフェリックス・サヴァールなどにより、アマーティのバイオリンとは異なる形の弦楽器も作られたが、音響の面ではアマーティをしのぐことができなかった。

 唯一、アマーティが発明したバイオリンをより洗練させることに成功したのが、1644年生まれのアントニオ・ストラディバリである。ストラディバリが制作したバイオリンは現在も、第一線で活躍するソリストに最も愛されている。

●いまだに謎が多いストラディバリウス

 アマーティとストラディバリウスの楽器は、その構造や材料についてさまざまな研究が行われてきた。しかし、これらの楽器が生み出す音響効果については、はっきりした理由が現在もわかっていない。

 バロック時代のバイオリニストでありストラディバリと同時代人でもあったフランチェスコ・ジェルミニアーニによれば、理想的なバイオリンの音色とは「完璧な人間の声と張り合う」ことであったという。

●「男性的」な音質のアマーティと「女性的」なストラディバリウス

 国立台湾大学の実験では、アマーティとストラディバリウスを含む15のバイオリンが用意された。台湾の奇美博物館所属のプロの演奏家たちと16人の声楽家が参加し、それぞれのバイオリンと声楽家の声の音階が分析された。16人の声楽家は16才から30才、男女半々であった。

 分析の結果、アマーティと彼と同時代のガスパーロ・ダ・サローの楽器は、非常に男性的なバリトンに近い周波数を特徴とすることが明らかになった。

 一方、ストラディバリウスの楽器はテノールやアルトに近く女性的であると結果が報告されている。ジェルミニアーニの言にあるように、当時の楽器制作者が人間の声に似せることを目指していた可能性は高いという。

●木材保存のプロセスが音響に好影響か

 研究チームは数年前から、なぜ16世紀からイタリアで生産された楽器が独特の音を出すのか調査を行ってきた。2017年に、ストラディバリがバイオリンの素材に施していたプロセスが音響に影響を与えていたことが判明したのである。

 ストラディバリは、素材となるカエデの木を制作前にアルミニウム、カルシウム、銅、ナトリウム、カリウム、亜鉛の溶液を染みこませるという作業を行っている。木材の質を維持するために考案されたプロセスであった。これが、カエデの木のミネラルと相互作用を起こし、音響に偶発的な好影響を与えたのではと言われている。

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