DNAは環境汚染の影響を受ける カナダの研究

2018年3月12日 08:58

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●先祖からだけではなく居住地区の環境もDNAに影響する

 カナダでの研究によると、スモッグはいくつかの遺伝子の変異に影響を与えることが判明した。つまり、DNAは先祖から受け継いだ遺伝子だけではなく、どこに住みどのような空気を毎日吸っているかという事柄にも左右されることになる。環境汚染は、人間の健康を損なうにとどまらず、遺伝子の変異をも引き起こす影響力を持つのだという。

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 研究結果は「Nature Communications」に掲載されている

●学界にも大きな衝撃

 遺伝子が、祖先より伝わるDNAだけではなく、住んでいる環境にも影響されるというこの研究結果は、大きな衝撃を持って迎えられた。

 専門家たちの疑問は、次の一点に凝縮している。

「遺伝子と環境はどの程度の相互作用を及ぼし、一人の人間を形成するためにどのような影響を当たるのか」。

 これまで、カナダの研究チームは遺伝子の研究を長年にわたって行い、疫学の分野においても大きな貢献をしてきた。今回の研究は、環境と人類の将来を考えるにあたりさらに大きな前進となった。

●ケベック州をモデルに研究

 研究は、カナダのケベック州に住む40代から70代の1,000人を対象に実施された。対象となったのは、モントリオール、ケベック・シティ、サグネ・ラック・サンジャン地区の三つである。

 ケベック州最大の都市であるモントリオールは、1平方キロメートルあたりの人口が4,500人と人口密度が高い。一方、ケベック・シティはモントリオールよりは低く、森と湖が広がるサグネ・ラック・サンジャン地区はさらに人口密度が低い。

●フランスからの移住者を先祖に持つ三つの地域の相違とは

 3つの地域は当然のことながら、環境汚染のレベルは異なる。しかしこの地区の住民が、17世紀初頭にカナダに移住してきたフランス人入植者を先祖としている点では共通している。つまり、基本的な遺伝子は均質であったため、遺伝子に由来する血中のタンパク質の値を測定することにより、環境汚染と遺伝子の発現レベルを評価することが可能であった。

●地域ごとに異なる病気の発症率

 研究によって、喘息をはじめとするさまざまな病気の発症率の高さは、住居がある地理的領域が理由となるケースが圧倒的に多いことが判明した。

 この結果は、過去に行われた他の研究結果の正当性を裏付けることにもなった。たとえば、ヨーロッパの研究機関では14の主要都市に住む36万人のデータを収集し10年以上に渡り調査、22の研究を発表している。ヨーロッパの研究では、法律で許容される濃度よりも低い大気汚染の地域でも、大気に含まれる微粒子の物質が呼吸器系の病気や心血管血管の原因となることが判明していた。

●研究が進むごとに高まる警鐘

 環境汚染が人体に及ぼす影響は、さまざまな研究や調査が進むたびに深刻度が浮き彫りになっている。現在、環境汚染が原因で亡くなる人は、年間700万人にもおよぶと推測されている。

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