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魚の「浮き袋」は進化上の発明、カギは「腹側」から「背側」への遺伝子スイッチ
魚には「浮き袋」という器官がある。これは進化上の大きな発明であるという。生物の形態進化には、アミノ酸をコードする翻訳配列の変化より、遺伝子発現を調節するエンハンサーなどの制御配列?変化のほうが深く関わっていると考えられている。翻訳配列の変化が複数?組織において重大な影響を与え得るのに対し、特定の組織だけで働くエンハンサーの変化は他の組織への影響なしに形態変化を生ずることが理由と考えられる。特に、遺伝子がこれまで発現のなかった部位で発現すると、新しい形態の獲得に繋がるため、新規発現パターンを誘導するエンハンサーの出現は、形態進化に重要な働きを持つと考えられてきた。しかし、そのような例が実際に示されたことは希だった。
陸生動物は、肺を使って空気呼吸をするが、鰓呼吸する魚は、肺の代わりに浮力調整用の浮き袋を持っている。肺と浮き袋は、消化管からみて腹側から形成されるか背側から形成されるかの違いはあるが、解剖学的根拠および系統解析から、もともとは同じ構?から進化した相同器官であり、共通祖先の原始的な肺から浮袋が進化したと考えられている。しかしながら、どのようにして肺から浮袋への進化が成立したかはあまりわかっていなかった。
情報システム研究機構国立遺伝学研究所 哺乳動物遺伝研究室 嵯峨井知子博士研究員と城石俊彦教授らのグループは、遺伝子のスイッチであるエンハンサーの進化、つまりアミノ酸配列にかかわらないゲノムDNA塩基配列のわずかな変化が、陸生動物の肺から魚の浮袋という大きな形態進化の背景にあったことを明らかにした。
研究グループは、魚の浮き袋が原始的な肺から進化したという説に着目し、陸生動物と魚類のゲノム配列を比較解析した結果、形態形成に働くShh遺伝子を調節するエンハンサー配列が、肺を持つ陸生動物では体軸の腹側で活性を持つことを示した。一方、浮き袋を持つ真骨魚類では、このエンハンサーが働かなくなっていて、別のエンハンサー配列が体軸の背側で活性を持つことを明らかにした。これらのことから、肺から浮き袋への形態進化に伴ってエンハンサーの活性の腹側から背側へ転換が生じていたことがわかった。
ゲノムデータベースの充実やゲノム編集技術の発展などにより、任意の遺伝子の発現調節を自由に改変することが可能となっている。この研究のように、長い時間をかけて一度だけ起こった進化を実験によって検証する「実験進化学」は、これから急速に伸展することが期待されるとしている。(編集担当:慶尾六郎)
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※この記事はエコノミックニュースから提供を受けて配信しています。
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