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胎児期の脳神経細胞の異常が精神疾患を引き起こす仕組みを明らかに―慶大・石井、久保氏ら
子宮内胎児脳電気穿孔法によって3種の遺伝子をそれぞれ導入することにより、マウスの脳の体性感覚野に異所性灰白質を作ることに成功した。左はマウスの脳の断面図のイラストで異所性灰白質(緑)が形成された場所を示す。右は異所性灰白質(緑色 の細胞を含む塊)が白質内に位置していることを示している。(慶應義塾大学の発表資料より)[写真拡大]
慶應義塾大学の仲嶋一範教授、石井一裕博士、久保健一郎専任講師らは、マウスの脳が形成される際に本来とは異なる場所に神経細胞が配置されてしまうと、成熟期になっても障害部位から遠く離れた脳領域の活動に影響が及び、結果として認知機能障害や行動異常が引き起こされることを解明した。
脳が作られる胎児期には、脳の深部で膨大な数の神経細胞が生まれ、脳表面に向かって移動していく。その際、障害が起こると、本来の最終目的地より手前の移動途中に神経細胞が配置されてしまうことがあり、これを異所性灰白質と呼んでいる。
今回の研究では、3種類の異なる分子をマウスの脳にそれぞれ遺伝子導入して異所性灰白質を人為的に作成し、それらのマウスの行動の特徴を行動実験により調べたところ、共通して異常を示すことが分かった。
その行動異常は、作業記憶の低下と競争的優位性の低下といった、高度な思考を司る脳の領域である前頭葉の機能の異常に起因すると考えられるものであった。そして、マウスの前頭葉で神経細胞が興奮する活動を測定したところ、前頭葉の神経細胞の活動に異常が生じていること、異所性灰白質に含まれる神経細胞の活動を人為的に活性化して興奮させると低下した作業記憶が改善されることが明らかになった。
これらの結果から、異所性灰白質は神経の伝達を介して、これまで想定されていなかった離れた脳領域の神経活動に影響を与え、行動の異常を引き起こすことが分かった。
一部の統合失調症や自閉症スペクトラム障害の患者の脳では、白質内の神経細胞が異常に増加していることが報告されており、今回の研究で明らかになったような脳領域の機能を障害する仕組みと似たメカニズムが関係している可能性が考えられる。そのため、今回の研究はこれらの疾患のメカニズムの解明につながる可能性が期待される。
なお、この内容は「The Journal of Neuroscience」に掲載された。論文タイトルは、「Neuronal heterotopias affect the activities of distant brain areas and lead to behavioral deficits」(異所性灰白質は脳の離れた領域の神経活動に影響を与え行動異常を引き起こす)。
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