「プロトンM」ロケット、復活へ 8月28日に打ち上げ再開

2015年8月28日 12:00

印刷

記事提供元:sorae.jp

「プロトンM」ロケット、復活へ 8月28日に打ち上げ再開(Image Credit: Roskosmos)

「プロトンM」ロケット、復活へ 8月28日に打ち上げ再開(Image Credit: Roskosmos)[写真拡大]

 今年5月に打ち上げに失敗したロシアの「プロトンM」ロケットが、8月28日に打ち上げを再開する。ロシアにとって、自国の衛星のみならず、外国の商業衛星の打ち上げも担っているプロトンMの信頼回復は急務となっているが、そのためには多くの難関が待っている。

 この打ち上げ再開ミッションでは、英国インマルサット社の通信衛星「インマルサット5 F3」が搭載される。現在までの打ち上げ準備は順調で、すでに8月25日には、ロケットが発射台に設置された。打ち上げ日時は、カザフスタン時間8月28日17時44分(日本時間8月28日20時44分)に設定されている。

 この打ち上げでは、インマルサット5 F3を近地点高度(軌道の中で最も地球に近い点)が4341km、遠地点高度(最も遠い点)が6万5000km、軌道傾斜角(赤道からの傾き)が26.75度の、スーパーシンクロナス・トランスファー軌道と呼ばれる軌道に投入する。離昇から衛星分離まで、15時間31分にもわたる長時間のミッションとなる。

 その飛行の大半を担うのは、プロトンMではなく、ロケットの最上段に搭載されている「ブリーズM」という機体である。ブリーズMはエンジンの点火と停止が複数回繰り返すことができ、また長時間にわたって宇宙空間で運用することもできるため、人工衛星をさまざまな軌道に投入することが可能となっている。しかし、それだけに開発や運用は難しく、これまでに何度か失敗を起こしている。

 今回の打ち上げでも、プロトンMが正常に飛行するかどうかだけではなく、このブリーズMの飛行の成否にも注目が集まる。

 また、この打ち上げのあとには、11月までに5機の打ち上げが計画されているという。ロシアのインターファクス通信が8月3日に報じたところによれば、9月14日に通信衛星「エクスプリェースAM8」を、10月6日に通信衛星「トルコサット4B」を、さらに10月中にロシア国防省の軍事衛星、そして11月中に通信衛星「ユーテルサット9B」と「エクスプリェースAMU-1」を打ち上げるという。また、この6機以外にも、12月にはインテルサット社の通信衛星の打ち上げが計画されている。

 この打ち上げ頻度は、プロトン・ロケットのこれまでに歴史の中でもかなり過密なスケジュールで、運用が始まった1960年代から見ても、数えるほどしか例がない。

 当初、これらの打ち上げは、今年5月から8月にかけて行われるはずだったが、失敗のあおりを受けて延期されており、少しでも早く遅れを取り戻すことで、信頼回復を急ぎたい考えがあると見られる。

 さらに、これらの打ち上げのほとんどではブリーズMが使われるが、エクスプリェースAM8に限っては「ブロークDM-03」というまったく別の上段が使われることになっている。ただでさえ過密なスケジュールの中に、扱い方が異なる2種類のロケットが入ってくることになる。

 かつて2010年には、いつもと違う上段が入ってくるという今回と似た状況の中で、作業員がいつもと同じ感覚で推進剤を入れてしまった結果、入れすぎてしまい、それが原因で打ち上げが失敗するという事故が起きている。それを受けて取られた対策が機能しているかが試される機会となる。

 さらに、2016年1月7日から27日の間には、欧州とロシアが共同で開発した火星探査機「エクソマーズ2016」の打ち上げも予定されている。もちろん失敗も許されないが、何よりも火星探査機は他の衛星と違い、地球と火星の位置関係から、打ち上げができる機会が限られている。その機会は約2年2カ月ごとにしか巡って来ず、何らかの理由で打ち上げが延び、2016年1月を逃すと、強制的に2018年まで延期せざるを得ない。

 またエクソマーズ2016は、その2年後に打ち上げられる「エクソマーズ2018」で計画されている火星探査ローヴァーの技術実証も兼ねている。もし打ち上げ延期、あるいは失敗するようばこちがあれば、エクソマーズ2018の打ち上げ時期が遅れるだけはなく、計画そのものにも大きな影響が出ることになる。そしてプロトンMの威信にもさらに傷が付くことになる。

 プロトンMは大きな打ち上げ能力を武器に、ロシアの大型衛星や探査機、外国の民間の衛星などの打ち上げで活躍。かつては1年間に10機ほどが打ち上げられるほどの高い信頼性をもっていた。それは、ロケットの信頼性を何よりも重視する民間の衛星会社、とくに欧米の企業の衛星を多数打ち上げている実績がそれを証明している。

しかし近年では1年間に1機ほどの頻度で失敗が続いており、徐々に顧客が離れ、別のロケットへと流れつつある。

 現在ロシアは、プロトンMの後継機となる「アンガラ」ロケットの開発を進めているが、完全に代替が完了するのは2020年ごろの予定で、それまではプロトンMを使い続けるしかない。残りの数年を無事に過ごし、そしてアンガラにたすきをつなげられるか。プロトンMは今まさに正念場を迎えている。

■РКН «Протон-М» с КА «Инмарсат 5F3» установлена на стартовой площадке
http://www.roscosmos.ru/21660/

【関連記事】
プロトンMロケット、8月末から11月にかけて6機の打ち上げを計画=インタファクス通信
プロトンMロケット、8月28日に打ち上げ再開へ=ロシア連邦宇宙庁
プロトンMロケット打ち上げ失敗の原因は設計ミスだった 品質管理にも問題=露宇宙庁
プロトンMロケットの打ち上げ失敗、第3段のステアリング・エンジンに問題か
ロシアのプロトンMロケット、打ち上げ失敗 東シベリア南部に墜落か

関連記事