プロトンMロケット、通信衛星「エクスプレースAM7」の打ち上げに成功

2015年3月20日 12:00

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記事提供元:sorae.jp

プロトンMロケット、通信衛星「エクスプレースAM7」の打ち上げに成功(Image credit: Roskosmos)

プロトンMロケット、通信衛星「エクスプレースAM7」の打ち上げに成功(Image credit: Roskosmos)[写真拡大]

 ロシア連邦宇宙庁は3月19日、ロシアのカスミーチェスカヤ・スヴャース社の通信衛星「エクスプレースAM7」を搭載した、「プロトンM/ブリーズM」ロケットの打ち上げに成功した。プロトンM/ブリーズMは、昨年5月にプロトンMの第3段の故障で失敗、10月にはブリーズMの燃焼が予定より早く終わってしまい、予定していた軌道に衛星を投入できないという事故を起こしているが、今回で4機連続の成功となった。

 ロケットは現地時間2015年3月19日4時5分(日本時間2015年3月19日7時5分)、カザフスタン共和国にあるバイコヌール宇宙基地の200/39発射台を離昇した。ロケットは順調に飛行し、打ち上げから約9時間13分後に、衛星を所定の静止トランスファー軌道に投入した。今後、衛星側がスラスターを使い、最終目的地の静止軌道へ移動する予定だ。

 ロケットから送られたテレメトリー・データによれば、プロトンMやブリーズMがほぼ計画通りに飛行したことを示している。また米軍が運用する宇宙監視ネットワークも、近地点高度5406km、遠地点高度3万5752km、軌道傾斜角19.91度の軌道に入っていることを確認している。

 エクスプレースAM7はロシアのカスミーチェスカヤ・スヴャース社が運用する通信衛星で、ロシア全域にデジタルTV放送や移動体向け通信サーヴィスを提供する。また、政府機関の機密通信にも使われる。

 製造はフランスに本拠地を置くエアバス・ディフェンス&スペース社によって行われた。衛星バスにはユーロスター3000が使われ、24基のCバンド、36基のKuバンド、2基のLバンド・トランスポンダーが搭載されている。打ち上げ時の質量は5720kg、設計寿命は15年が予定されている。

 プロトンMロケットの打ち上げは今年2機目となった。またプロトン・シリーズの打ち上げは通算で403機目、プロトンMに限れば89機目となった。

 プロトン・ロケットは1962年に開発が始まった。開発を指揮したのはヴラジーミル・ニコラーエヴィチ・チェローメイという人物だ。チェロメーイは1914年、帝政ロシアのシェドルツェ(現在のポーランドにあたる場所)で生まれ、1984年に亡くなっている。元は数学者だったが、その後設計者に転身し、第52設計局(OKB-52)で辣腕を振るう。巡航ミサイル、弾道ミサイル、宇宙開発の分野で活躍し、50年代から60年年代のソヴィエトの宇宙開発を率いていた、セルゲーイ・コロリョーフの最大のライヴァルとして君臨した。

 プロトンは当初2段式のロケットで、100メガトン級核弾頭を米国に撃ち込む大陸間弾道ミサイル(ICBM)としても使うことを目的としていたが、ICBM案は1965年に中止され、宇宙ロケットとして使用されることになった。そして1965年7月16日、初の打ち上げで科学衛星プロトン1を軌道に投入することに成功する。出自が出自だけに、プロトン1の質量は12.2tもある大型の衛星だった。

 また1964年には、主に軍用宇宙ステーションや有人の月ミッション用として、3段式版のプロトン開発も始まっており、またさらに4段式も、さらにはプロトン自身も改良型のプロトンKが造られた。そして1967年3月10日に4段式版のプロトンK/ブロークDが打ち上げられた。そして各種人工衛星の他、ソヴィエトの月探査機ゾーントやルナー、火星探査機マールスといった、月・惑星探査機の打ち上げでも活躍した。またこの4段目は、ブロークDMやDM-2やDM3、そしてブリーズMといった具合に進化を続ける。

 一方、3段式版プロトンKは1968年11月16日に初打ち上げが行われ、主にサリュートやミール、国際宇宙ステーションのモジュールの打ち上げで活躍した。

 2001年4月7日には、第1段エンジンと第3段エンジンを改良したプロトンMが登場し、ブロークDM-2、DM-03、そしてブリーズMを第4段に使用し、現在も活躍中だ。また90年代中ごろからは、米ロの企業が共同で立ち上げたILS社による商業打ち上げサーヴィスも始まり、かつて米国に核弾頭を撃ち込むために造られたロケットが、米国の通信衛星を打ち上げるといったことも始まった。

 だが、近年では打ち上げ失敗が増えており、ある関係者は「もはやプロトンに信頼性はないようなものだ」と言うほどの有様だ。プロトンは強大な打ち上げ能力を持ち、それに匹敵するライヴァルは欧州のアリアン5ぐらいしかないことから、大型の静止衛星の打ち上げなどでは高い需要を持っていたが、しかし商業打ち上げの受注は減少しつつあるのが実情である。

 一方、プロトンMを製造しているフルーニチェフ社では、プロトンMを含む、ロシアのいくつかのロケットを代替することを目指した「アンガラ」の開発が進められており、今年12月23日には、プロトンMとほぼ同じ打ち上げ能力を持つバージョンの「アンガラA5」の試験打ち上げに成功している。アンガラの運用が軌道に乗れば、2020年代にプロトンMを代替する予定となっている。

■Телекоммуникационный спутник «Экспресс-АМ7» выведен на целевую орбиту
http://www.roscosmos.ru/21375/

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