【経済分析】5月の景気ウォッチャー調査〜カギを握る先行き判断DI

2014年6月10日 15:05

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記事提供元:さくらフィナンシャルニュース

【6月10日、さくらフィナンシャルニュース=東京】

昨日、内閣府から5月の景気ウォッチャー調査が発表されました。

内閣府のコメントや新聞など一般に公表されている原データでは、現状判断、先行き判断DIとも5月は前月から3.5ポイント上昇となっていますが、季節要因の影響を除去していない原データは景気の実態を正しく反映していないため、景気ウォッチャー調査をみる場合には必ず、公表資料の最後(P26)に掲載されている「季節調整値」を見なければいけないことは、このブログでもたびたび述べてきました。

たとえば、このグラフは先行き判断DIの原データと季節調整値を比較したものですが、注目して頂きたのは、昨年後半の両者の動き(点線マルで囲った部分)です。原データの方は改善が鈍く、年前半の山を越えていませんが、一方で季節調整値の方は年後半の改善ぶりが顕著で、年前半の山を越えています。年末に高値をつけた日経平均と重ねてみると、明らかに季節調整値の方が株式市場の動きを反映していたことがわかります。

これは、例年10月と11月は季節的に先行き判断DIが極端に低く出る傾向があるためです。
季節要因を取り除かない原データで景気を見てしまう弊害は後々も続きます。5月の原データの先行き判断DIは53.8と消費増税の影響で落ち込む前の昨年12月の54.7までほぼ戻っています。グラフからは、あたかも消費増税の影響を完全に脱して景況感が元に戻った印象を受けてしまいます。

しかし、これはすでに述べたように、昨年後半の原データの先行き判断DIが景気の実態よりも低く出ているためにそのように見えるだけです。5月の季節調整値の先行き判断DIは51.0で、消費増税前のピークである昨年11月の58.7をまだかなり下回っており、先行きの景況感は消費増税前の水準まで戻っていないのが実態です。これもまた、季節調整値の方が日経平均の動きと合っています。

主要な景気指標で季節調整値ではなく原データで景気が語られているのは景気ウォッチャー調査くらいなものです。一刻も早く、主要な公表データを原データから季節調整値に変更して頂くことを内閣府にのぞみます。

あらためて5月の景気ウォッチャー調査の季節調整値をみると、現状判断DIは5.3ポイント上昇の43.1と、駆け込みの反動で15.4ポイントの急落となった4月から持ち直しました。業種別DI(原データ)をみると、百貨店や乗用車販売の改善ぶりが目立ちます。一方、大幅に悪化したのが飲食関連でした。実は、増税直後の4月に現状判断DIの落ち込みが最も小さかったのが飲食関連でした。さすがに増税前に食いだめはできなかった、ということではないかと思います。5月は、百貨店や乗用車などの耐久消費財を中心に、駆け込みの反動で落ち込んだ消費が戻った分、飲食関連の消費が削られたのではないでしょうか。

一方、先行き判断DIは前月から4.6ポイント上昇の51.0と2か月連続で改善しました。
現状判断DIが1.0ポイント以上改善し、先行き判断DIも改善したことで、景気ウォッチャー投資法の「買いサイン」が今回の5月調査で出ました。

今後、景気や株式相場の先行きをみる上で注目したいのが先行き判断DIです。昨年からの先行き判断DIと日経平均(月末値)の関係を上のグラフで辿ってみると、ピークは13/2→13/4、13/11→13/12、ボトムは13/6→13/8、14/3→14/4と、いずれも先行き判断DIが日経平均に1〜2ヵ月先行していることがわかります。株価上昇が続くかどうかは先行き判断DIの改善が続くかどうかにかかっている、と言えそうです。

私自身は、すでにブログにも書いてきたように、来年は景気後退に入る可能性が高いのではないかと予想しており、また、先行き判断DIの改善幅が4月の14.3ポイントから5月は4.6ポイントに急速に鈍っていることから、年内のどこかで再び「売りサイン」が出るのではないかとみていますが、いずれにしても、先行き判断DIの今後の動きに注目していきたいと思います。【了】

野田聖二(のだせいじ)/埼玉県狭山市在住の在野エコノミスト
1982年に東北大学卒業後、埼玉銀行(現埼玉りそな銀行)入行。94年にあさひ投資顧問に出向し、チーフエコノミストとしてマクロ経済調査・予測を担当。04年から日興コーディアル証券FAを経て独立し、講演や執筆活動を行っている。専門は景気循環論。景気循環学会会員。著書に『複雑系で解く景気循環』(東洋経済新報社)『景気ウォッチャー投資法入門』(日本実業出版社)がある。著者のブログ『私の相場観』より、本人の許可を得て転載。

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