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【コラム 山口亮】社外取締役導入は万能薬にあらず(上)
【5月5日、さくらフィナンシャルニュース=東京】
国際的な投資家が聞いたら卒倒するような中途半端な法案が、今国会で実現しそうな勢いである。
「社外取締役を導入しない上場企業は、理由を説明しなければならない」とする会社法改正案が、衆議院を通過して参議院で審議がされている。筆者は、日本の上場企業が社外取締役を導入すること自体には賛成だ。日本の上場企業の取締役会が、「独立社外取締役」過半数となる時代を、早く見てみたいと心より願っている。
しかし、今、審議されている内容では、到底そんな日は訪れないだろう。
資本市場では、お金に実質的に色はない。国際的な投資家が株主になり、そのお金を預かる以上、国際的なスタンダードに合わせていく必要があるからだ。
米国や英国の資本市場では、取締役会とは、一般的に独立社外取締役が過半数からなる取締役会のことをいう。ちなみに、取締役(Director)と執行役(Officer)とは別の概念である。
経営執行を行う内部者(Officer)が多数を占める多くの日本の上場企業の取締役会は、外国人投資家には異様な印象を与えている。国際企業を目指すなら、一刻も早くこの事実を理解すべきだ。
仮に首相官邸周辺が、近い将来の選挙を見据えて、日経平均などの株価を上げようと努力しているなら、認識すべきは、以下の2点に要約されるだろう。
1、 世界の機関投資家は、資本市場ごとに資金配分の割合を決定するので、他の国の資本市場との競争になっていること
2、 国際的に法案がどうみられているか
そもそも、社外取締役をいれれば何かがよくなるという見解は、一昔前の「政権交代が起きればすべてがバラ色」などといった見方と同じで、期待外れに終わる可能性が必然であることも、指摘しておかなければならない。
実際にオリンパスの粉飾決算事件では、英ケイマン諸島のペーパーカンパニーに不良債権を移すスキームを提案していたとされる林純一氏が社外取締役であったため、
「「獅子身中の虫」が社外取締役という悪い冗談。これが日本式コーポレートガバナンスの実態か」(FACTA誌、2011年11月号)
という記事も報じられている。
少数株主から取締役が損害賠償請求を受け、裁判で係争中のHOYAの取締役会は、長らく社外取締役が多数だが、委員会設置会社に移行した03年以降も顕著な株式価値の上昇は得られていない。
社外取締役の過半数が70代後半以上の年齢というのは、いくらなんでも尋常ではない。名誉会長の友達から選んだのではと訝られてもおかしくないのではないか。
また、2013年の株主総会の前には、株主提案理由の掲載を命じられる保全事件(仮処分)の決定を「東京地裁民事8部」から受けていることについて、同社のガバナンスを絶賛してきた経済メディア関係者は、どのように説明するのだろうか。
ソニーも長らく取締役会も社外取締役が過半数だが、株価の低迷は続いたままだ。
ジャーナリスト出身のストリンガー社長に最高額に近い報酬を払いつづけていたばかりか、平井一夫社長になってからも業績は低迷しており、未だに株式価値を向上させる経営者を指名することすらできていない。
私見では、HOYAについては、株主提案者が推薦する社外取締役を取締役会に1人招聘した上で、不正会計問題を暴いたオリンパスのウッドフォード元社長をイギリスから呼び戻して、経営者に据えてもいいと思う。ソニーについては、ソニーの子会社のエムスリーの創業者である谷村格氏(マッキンゼー出身)が、実績や経営能力等を勘案すると、ソニー本体の最高経営責任者にもっとも適任な人物だと思う。
ウッドフォード氏や谷村氏のような専門経営者は、取締役会が株主利益を最大化すべく行動し、経営者の市場が本当に競争的ならば、各企業で取り合いになるはず。それほど思い切った人事をしない限り、取締役会は市場から期待されるべき機能を十分に果たせないのが、今の日本の現状なのである。
実際に、日本の社外取締役は、株主価値を増加させるためには、現実的にほとんど機能していない。
投資家は今後、どういう人間が投資先会社の社外取締役になるか、冷静に観察し、場合によっては声を上げる必要があるだろう。
事実、上場企業の社外取締役のポストは、経営的には何の役割も果たさない、高級官僚や弁護士の天下り先になりつつある。【続】
やまぐちりょう/経済評論家
1976年、東京都生まれ。東大経済学部卒。現在、某投資会社でファンドマネージャー兼起業家として活躍中。年間100万円以上を書籍代に消費するほど、読書が趣味。
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※この記事はSakura Financial Newsより提供を受けて配信しています。
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