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「老いた犬には新しい芸を仕込めない」? 犬にまつわる英語イディオム (6)
人間と犬の関係は、深い絆とともに多様な象徴を生み出してきた。そのため、前回まで見てきたように、犬は英語のことわざや表現においても頻繁に登場する特別な存在だ。
【こちらも】「犬のように働く」とは? 犬にまつわる英語イディオム (5)
今回も犬を題材にした英語のことわざを紹介するが、人間の行動や心理を反映した表現を取り上げ、その背景を詳しく探っていくことにしよう。
■You Can’t Teach an Old Dog New Tricks
「You can’t teach an old dog new tricks」、直訳すれば「年老いた犬に新しい芸は教えられない」とは、年齢を重ねると新しいことを学ぶのが難しくなるということわざである。英語圏では、実に500年近い歴史を持つことわざだ。
この表現の最初の記録は、イングランドの著述家、John Fitzherbertが1534年に著した『The Boke Of Husbandry』という農業に関する実用書に見られる。
同書では、動物の飼育方法が詳述されているのだが、そのなかに「The doggie must lerne it, when he is a whelp, or els it wyl not be: for it is harde to make an olde dogge to stoupe」という記述がある。
これは、「犬は子犬のうちに学ばなければならず、そうでなければ後になって教えるのは難しい」という意味だ。
時代は下って1721年に、Nathan Baileyという文献学者が、その著書において「An old dog will learn no tricks」と述べている。
これは単に犬のことを言っているのではなく、人間の行動変容の困難さを犬に例えているのだ。ここから、このフレーズが人間の性向を示すことわざとして定着していったと考えられる。
なお英語だけにとどまらず、他言語にも似たような表現が存在する。
たとえば、フランス語では「Ce n’est pas à un vieux singe qu’on apprend à faire la grimace(老猿に新しい表情を教えることはできない)」、スペイン語では「El loro viejo no aprende a hablar(年老いたオウムは話せるようにならない)」といった表現がある。これらもすべて、年齢や慣れ親しんだ習慣が新しい学びや変化の障壁になることを示すことわざだ。
このことわざは、しばしば「変化を拒むための言い訳」として使われる。たとえば、「自分は年だから新しい技術なんて学べない」といったように、挑戦を避ける理由づけとして使われることが多い。
しかし心理学的な観点からは、年齢そのものが学習能力の限界を決定するわけではない。むしろ、長年の習慣や思考パターンが変化を難しく感じさせる要因なのだ。
使用例
・I tried to teach my grandfather how to use a smartphone, but you can’t teach an old dog new tricks.
(祖父にスマートフォンの使い方を教えようとしたが、「年を取った犬には新しい芸を教えられない」ということだね)
逆に年齢を重ねても、新しい挑戦に積極的に取り組む姿勢を評価する形で、以下のようにも使用できる。
・I can't believe Grandma joined a dance class! I guess you can teach an old dog new tricks after all.
(祖母がダンスクラスに参加するなんて信じられない!年を取った犬にも新しい芸を教えられるってことだね)(記事:ムロタニハヤト・記事一覧を見る)
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