資金源は三井住友銀行、余りに整い過ぎた大正製薬HDの最大規模のMBOは成功するか
2023年12月19日 09:18
MBO(経営陣が参加する自社買収。非公開化)が、増勢を強めている。ブルームバーグの調べでは今年のMBO総額は8700億円超と、昨年の約2.7倍に上るという。確認可能なデータで過去最大規模に及び、その増加率は世界全体の50%を大きく上回るとされる。
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これまでにもMBO/非上場化を経て再上場し「企業価値向上」に繋がったとされる例としては、すかいらーくグループやワールドが指摘される。
MBOの目的は非公開化により経営の自由度を得て、業態の構造改革を実現すると説明される。がそうしたメリットに対し「危惧」が指摘されているのも事実。
今日のMBO増加の背景には、アクティビスト(もの言う株主)の存在がある。議決権確保のコンサルティング業務などを手掛けるアイ・アールジャパンHDによると、アクティビストの株主提案数は9月末時点で昨年に比べ19%増え、過去最大に上るという。
アクティビストに詳しい筋は「自らも資本を投下しMBOを促し、成果を享受/保有株を売却というストーリー」で臨んでくるケースも少なくないとする。創業家が発行済み株式の30%余を保有している場合や、不動産など余剰資産が多い企業が「狙われる易い」という。
今年、MBOを発表した著名企業に大正製薬HD(東証スタンダード)がある。MBOによる企業価値拡充に成功するか否かは、時間の経過を待たねばならないが、大正製薬HDの非公開後の動きに注目したい。
大正製薬HDがMBO/非上場化を発表したのは11月24日。創業家出身で大正製薬HDの副社長:上原茂が代表取締役社長を務める傘下企業大正製薬が、11月27日から来年1月15日に1株当たり8620円(24日終値より約5割高)で大正製薬HDのTOBを行う。
普通株で66.57%を上回ることが成立条件。この案件に大正製薬HDは賛同の意を示した。また24日の段階で発行済み株式の約4割を保有する創業家(上原家)も、株式放出の意向を示している。成立後は上原氏がHDの社長に実父:明氏に代わり社長の座に就く。約40年ぶりの代替わりとなる。
製薬業界に明るいアナリストは、「HD傘下の大正製薬はリポビタンDやパブロンなどで知られる大衆薬を製造している。ドラッグストアなど店頭販売が主力だが、HDは(ネット)通販に軸足を移そうと考えている。またアジア市場で同業他社のM&Aも視野に入れており、経営の自由度が不可欠と考えている」と解説する。
私は同時にこのMBOが「資金需要に対し口うるさい、一筋縄ではいかない金融機関が背後についたこと」に、興味を覚える。MBO実現/非上場化に必要な資金は7000億円超。国内では過去最大規模となる。対して発表の時点で「三井住友銀行からの資金借り入れ」が決まっていた。お墨付きがついた国内最大規模のMBOである。(記事:千葉明・記事一覧を見る)