月面でのリサイクル部品製造の可能性 欧州宇宙機関が研究
2023年8月9日 15:29
再び人類が月面に降り立つのは、アルテミス計画では2025年以降とされているが、人類の月面長期滞在を可能にするための技術開発も、着々と進められている。欧州宇宙機関(ESA)は、月面で古くなった宇宙船、探査機、月面車などから回収したスクラップ金属を回収して、新しい高性能パーツを製造する3Dプリント技術に関する研究成果を公表した。
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人類が月面で長期滞在を可能とするため、生活に必要となる機材をすべて地球から運び込むにはコストがかさむため、現地調達率を高めていく必要がある。とは言え月に存在する天然資源を開発して利用することは、初期投資がさらにかさみ現実的ではない。
そこで着目されたのが、スクラップ金属のリサイクル活用だ。だが月面では粉塵が非常に多く、スクラップ金属をリサイクル活用する際に、粉塵が混入する懸念がある。
ESAでは、オーストリアの積層造形会社Incusと協力。同社は、金属粉末と結合剤を組み合わせ、紫外線を使用して得られた混合物を硬化させるリソグラフィベースの金属製造「LMM」を専門としている。両者は、新品チタンとリサイクルチタンの組み合わせに加え、体積で最大10%の模擬月塵を使用して、3Dプリント造形を試みた。
その結果、粉塵汚染レベルが高くなると、原料の流動性が増加することが判明したが、最適な粉末と結合剤の比率によりこの現象を克服して、従来の金属射出成形部品に匹敵する強度を備えた望ましい部品品質を達成できることを確認したという。この研究には18カ月を要したが、月面でのリサイクル金属利用による部品製造の見通しを立てることができた。
3Dプリント技術の月面利用については、他にNASAが取り組む3Dプリント月面基地「LINA」がある。この取り組みでは既に-170度から70度の温度範囲で、真空中でも動作するように設計された宇宙仕様の3Dプリントシステムが開発されている。
近い将来、基地建設用のロボットを月に人間より先に送り込み、基地が完成してから、人間が月面に行き、そこで生活を始められるような時代が来るかもしれない。(記事:cedar3・記事一覧を見る)