ブラックホールの蒸発が理論的に正しいことを証明 蘭ラドボウド大

2023年6月7日 16:50

 ブラックホールの蒸発は、スティーブン・ホーキング博士が唱えた事象だ。ブラックホールの事象の地平面(その面を境にそれより内側からでた電磁波が、ブラックホールの重力で脱出不可能になる領域)付近で、対で生成される正の粒子と反粒子のうち、反粒子が吸い込まれることがあり、これによりブラックホールのエネルギーや質量が減少することを指す。

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 ブラックホールの蒸発が起こるのは、量子の不確定性に起因する。宇宙空間では量子の不確定性により、正の粒子と反粒子が常に対で生成されては消えていく。だが古典物理学上は、見た目の上では宇宙空間では何も起きず、エネルギーや質量の変化は起きないと考える。これがエネルギー保存則と呼ばれる一般認識だ。

 一方で量子の世界では、空間は絶えず沸騰する水面の如く、混とんとした不確定状態にある。古典物理学と量子論の違いはここにある。

 オランダのラドボウド大学の研究により、ブラックホールの蒸発は理論的に正しく、しかもそれは事象の地平面近傍の宇宙空間だけで起こるのではなく、事象の地平面が存在しない(つまりブラックホールになり得ない)重力源においても、これと同様の現象が起こることが示された。

 この理論によれば、宇宙空間で対創成された正の粒子と反粒子は、重力による時空の歪みで潮汐効果を受け、重力の大小にかかわらず、あらゆる重力源が最終的には蒸発すると言う。分かりやすく言えば、ブラックホールでは蒸発速度が速く、地球のような弱い重力源では蒸発に無限に近い時間が必要になるということだ。

 時空の歪みは、空間座標の違いでどれだけ時間の進み方が異なるかを考えると、理解しやすい。重力が強い空間では、座標の少しのずれで時間の進み方が著しく異なるが、地球上では座標の違いによる時間の進み方の違いは、無視できるほど小さい。時空の歪みのない世界では、どこにいても時間の進み方は変わらないが、逆にそこには重力は存在しないのだ。

 今回の研究の詳細は、6月2日に米国物理学会(APS)の「Physical Review Letters」に掲載されている。(記事:cedar3・記事一覧を見る

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