超大質量ブラックホール付近で発見された、人類の歴史よりも若い恒星 ケルン大の研究
2023年3月3日 16:33
ブラックホールには様々なサイズのものがあるが、宇宙に無数に存在している銀河の中心には、超大質量ブラックホールが存在していることは今や常識だ。私たちの銀河系が誕生したのは今から約130億年前と考えられており、そのころから超大質量ブラックホールも存在していたと考えられる。
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そんな宇宙の古株と考えられている超大質量ブラックホール近傍では、人類の歴史よりも若いとされる恒星が存在する。ケルン大学の研究者らかなる国際研究チームは2月28日、天の川銀河の中心にあるブラックホール(いて座A*)付近で、形成段階にある非常に若い恒星を発見したと発表した。X3aと呼ばれるこの恒星は、わずか数万歳と人類の歴史より若く、大きさは太陽の10倍、質量は15倍という。
従来、超大質量ブラックホール近傍ではブラックホールの潮汐力が恒星誕生に必要なガスの凝縮を妨げ、若い恒星は存在できないと考えられてきた。だが今から20年ほど前、いて座A*近傍で非常に若い恒星が発見された。「若さのパラドックス」と呼ばれ、研究者たちからは不思議な存在として捉えられてきた。
ケルン大学の研究者らが着目したX3は、「若さのパラドックス」の謎を解明するカギを握る存在としてクローズアップされる。様々な波長での電波観測により、X3aでは、原始惑星系円盤に類似する複雑な分子や元素の存在が確かめられたという。つまり、低温で高密度のダスト領域の存在が示唆されたのだ。この領域では太陽質量の数百倍程度のダスト雲が形成されている可能性があるという。
理論的には、そもそも超大質量ブラック ホールの近くでは若い構成は存在できないはずだ。今回の観測結果は、ダスト雲がブラックホールの重力による分子同士の衝突摩擦熱などによって、複数の熱い塊に成長し、これが恒星の核となって、複数の若い恒星の誕生につながった可能性を示すものとしている。
今回の研究だけでは、X3の誕生のメカニズムは完全に説明できたわけではない。だが誕生から130億年も経過したブラックホールの近傍で、現在においても若い恒星が誕生できるという事実は、宇宙の可能性の計り知れなさを象徴している。
なお研究の成果は、米「アストロフィジカルジャーナル」で公開されている。(記事:cedar3・記事一覧を見る)