ブラックホールによって細断された恒星の最後 カリフォルニア大学の研究

2022年7月12日 07:47

 ブラックホールは非常に強い重力で周りの物体を吸い込む。たとえ光の速度であってもブラックホール内部にいったん捉えられれば、脱出は不可能である。だが、そのような状況を実験で再現することは困難で、数値解析シミュレーションによる考察も膨大なコストがかかり、現実的でない。

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 2019年の秋に2億1500万光年離れた連星系で、その状況を直接観測できるチャンスが訪れた。ただし遠すぎて、ブラックホールに吸い込まれていく恒星の状況を、アニメーションのようにリアルに捉えることは不可能だった。そこからやってくる光の情報を詳しく分析し、どんなことが起こっているのか、科学者たちは考察を試みている。

 米カリフォルニア大学バークレー校は11日、この連星系では、恒星が自身の100万倍の質量を持つブラックホールに接近したことで潮汐破壊が起こり、遥か彼方の地球にまでその光が届いたという、研究結果を発表した。この明るさで恒星の潮汐破壊を観測できたのは、人類史上初めてだ。

 ブラックホール近傍では、その距離差がわずかでも、重力の大きさは著しく異なる。恒星のブラックホールに最も近い点と、最も遠い点では、凄まじい重力差が生まれる。恒星自体が持つ重力で恒星は球形を保っているが、ブラックホールによる潮汐力が恒星自体の重力を大きく上回れば、恒星はチューインガムを両手で引っ張った時のように引き延ばされ、破壊に至る。これがブラックホールによる恒星の潮汐破壊現象だ。

 カリフォルニア大学の研究者は、今回の潮汐破壊があまりにも遠く、画像を直接捉えることができないため、そこからやってくる光の偏光分析を試みた。その結果、潮汐破壊で生じたガス雲の直径は100天文単位にも及び、その内部の30天文単位程度の領域から強い光が発せられたことを突き止めた。

 冥王星が太陽から最も離れた時の距離が約50天文単位のため、潮汐破壊によって生じたガス雲のスケールは実にその2倍という、とてつもないものだったのだ。(記事:cedar3・記事一覧を見る

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