宇宙の大規模構造解明へ 世界最大規模の「模擬宇宙」公開 国立天文台
2021年9月14日 15:48
国立天文台は10日、天文学専用のスーパーコンピュータ「アルテイII」を用いて、世界最大規模の「模擬宇宙」を作ることに成功したと発表した。この成果は、宇宙の大規模構造の謎に迫る研究となる。
天文学が宇宙について探求する学問分野であることは今更言うまでもないが、そのアプローチの手段によって、観測天文学、理論天文学、シミュレーション天文学に分類される。なかでも、最近コンピュータの進歩とともに目覚ましい進歩を遂げてきたのがシミュレーション天文学だ。国立天文台は、2018年6月から「アルテイII」の本格運用を開始。その性能は、銀河系に存在する数千億個の恒星1つ1つの運動をシミュレーションすることも可能なほどだ。
今回国立天文台は、アルテイIIにより、宇宙の全質量の8割を占め、光学的観測が不可能な暗黒物質の挙動のシミュレーションを実施した。暗黒物質は、ウィキペディアによれば「質量は持つが、光学的に直接観測できない」物質であるとされている。つまり観測天文学によってその謎を解明することが困難な存在なのだ。だが宇宙の全質量の大半を占めるため、宇宙の進化の謎を探っていくためには無視できないどころか、最重要視する必要がある。
そこで威力を発揮するのが、シミュレーション天文学である。具体的には2.1兆個の暗黒物質粒子を仮定し、それらに働く重力の影響をシミュレーション。宇宙誕生から現在までの期間にどんなことが起きたのかを推定したのだ。
これによって得られた世界最大規模の「模擬宇宙」は、一辺が96億光年にも及ぶ。これを用いれば、矮小銀河から巨大銀河群に及ぶ、あらゆる宇宙の構造を構成する要素について、形成機構を推定することが可能となる。すばる望遠鏡などによる大規模な天体観測結果とともに利用することで、これまでに宇宙がたどってきた進化の謎の解明も期待される。
なにせ宇宙の138億年の歴史をシミュレーションするわけだから、解析にかかった時間は膨大であったことは想像に難くない。それによって得られた結果は、80秒のアニメーションとしてYouTubeで誰でも見ることができる。
今回の研究成果は、イギリス王立天文学会誌の2021年9月号に掲載されている。(記事:cedar3・記事一覧を見る)