噂で買って事実で売る 「アベノミクス」再来に色めき立つ日本の株式市場 後編

2021年9月8日 16:02

 8月のアメリカ雇用統計は、市場予想の約72万人増を大幅に下回る約23万人の増加でしかなく、大きなネガティブサプライズとなった。世界が注目するアメリカの雇用統計がネガティブであれば、テーパリング(金融緩和の縮小)の議論が長引く可能性があり、市場には安心感を与える。

【前回は】噂で買って事実で売る 「アベノミクス」再来に色めき立つ日本の株式市場 前編

 しかしながら、仮に雇用統計の結果がポジティブであったとしても、同じような結果になった可能性が高い。ネガティブな結果は金融緩和の継続、ポジティブな結果はアメリカ経済の回復を裏付けるため、いずれにしても市場にとっては好材料となるからである。

 このような楽観的なムードが蔓延するなか、行き場を失ったコロナバブルの資金が、「解散総選挙」前の「菅首相の総裁選不出馬」表明直後から早くも材料視されたことで、日本の株式市場に集まったといえる。もともと、解散選挙時には海外勢の買い意欲は旺盛だ。

 そして、早速総裁選出馬することを表明したのが、「アベノミクス」を掲げた安倍前首相の後継者といわれていた岸田前政調会長であった。その後に高市前総務相が続いたが、こちらは安倍前首相に近いだけではなく、「アベノミクス」を拡大する政策をすでに掲げている。

 「アベノミクス」時にはプライマリーバランス(財政支出)を考えすぎて、つまりは国の借金が増えることを恐れたために、財政出動が中途半端だったと主張する高市前総務相は「ニュー・アベノミクス」で自国通貨建て国債を拠り所に、「アベノミクス」を拡大させるつもりだ。

 そんな政策を掲げる高市前総務相を、安倍前首相が支援すると伝えられたのだから、国内のみならずとも、諸手を挙げて海外から資金が集まってくるのは当然である。もちろん、高市前総務相ではなく、岸田前政調会長が総裁選で勝利したとしても、安倍前首相の影響は残る。

 もっとも、河野行政改革担当相や、今のところ不出馬の可能性が高い石破茂元幹事長などが総裁選で勝利すれば、安倍前首相の影響力は遠のき「アベノミクス」の再来は幻想に終わるかもしれない。

 このような様々な思惑が交錯するなかで、日本の株式市場が恰好の餌場となっているのは紛れもない事実であるが、果たして、この上昇局面はいつまで続くのであろうか。「噂で買って事実で売る」というアノマリー通りであれば、総裁選告示の9月17日か、もしくは投開票の29日が一旦のピークとなる。

 しかし、その後に「セルインメイ、カムバックインセプテンバー」が続くとすれば、衆議院解散日から総選挙が終わる12日間まではアノマリー通りに上昇となり、日本の政局が固まった段階で「事実で売る」ことになるのかもしれない。高市前総務相が政権を獲れば、さらに一段高も望める。

 テーパリングを控えたコロナバブルの最終局面ともいえる状況下における日本の株式市場の上昇が、衆議院総選挙の結果を経て、いよいよ最期のリスクオンとなるのかどうか、「噂で買って事実で売る」を意識しつつも、その動向には十分に注視されたい。(記事:小林弘卓・記事一覧を見る

関連記事

最新記事