噂で買って事実で売る 「アベノミクス」再来に色めき立つ日本の株式市場 前編
2021年9月8日 07:56
政治の重要局面、特に解散総選挙時の日経平均株価は、解散から選挙までの勝率がほぼ100%であることは先日の記事でお伝えしたとおりだが、今回の株価上昇のタイミングは解散よりも早い「菅首相の総裁選不出馬」であった。その理由と今後の展開を考察したい。
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日経平均株価は2月16日の直近最高値以降で下落基調となり、ボトムラインをジワジワと切り下げながらも、27,000円台を死守しながら下落と反発を繰り返すという、1つのパターンが出来上がっていた。そして、アメリカのダウ平均株価をはじめとする世界各国の株価に遅れを取っていたことも明らかであった。
インフレ率2%の目標にこだわりすぎた結果、出口戦略を明確にできなかった日銀が、アメリカと合わせるようにひっそりとテーパリングを始めたのは、年始以降のETF買い入れ状況からも周知の事実だ。加えて、日本国内はデルタ株の蔓延が著しく、五輪が問題視され、菅内閣の支持率が下がり続けるなかで買い材料に乏しく、ここまでは当然の下落基調だったと言えよう。
5月13日以降は、節目の27,000円が意識される展開ながらも、何度か反発を繰り返していたが、8月20日にはザラ場(寄付から引けまでの間の取引時間)でついに27,000円を割り込み、年始からの最安値で引けたのである。
このまま27,000円を割り込み続ける展開となれば、日銀が購入しているETFの損益分岐点である21,000円台までは、下落の余地が残されていたと言えよう。しかし、総裁選という政治の重要局面をきっかけに、8月31日以降、心理的な節目とされる200日移動平均線をあっさりと超え、大幅な上昇が続いているのが現状だ。
それでは、今回の上昇タイミングが衆議院解散よりも早い「菅首相の総裁選不出馬」であったのは何故かと言えば、そこに安倍前首相の政策踏襲、つまりは「アベノミクス」の再来が見え隠れしていたと言えるのではなかろうか。
菅首相が総裁選不出馬であれば自ずと候補が絞られる。絞られるなかでも日本の政治は派閥がモノを言う。現政権である菅・二階政権にほころびが出るとすれば、俄然存在感を増すのが、自民党最大派閥に力を残す安倍前首相である。
貧富差を拡大させ、中途半端であったという批判も多い「アベノミクス」ではあるが、圧倒的な株高を演出したのは間違いない事実だ。そんな「アベノミクス」への回帰の可能性があるとすれば、市場が色めき立つのは当然であろう。
そして、今や各国の大規模な金融緩和や財政出動によってあふれ出た資金は、コロナバブルとなって行き場を失っている状態でもある。リスクオン資産である株価と仮想通貨だけではなく、リスクオフ資産であるゴールドや債券も購入されていることが何よりの証明だ。
そんな状況下に、前週のアメリカ雇用統計の結果がさらなる安心感をもたらした。(続く)(記事:小林弘卓・記事一覧を見る)