「良いインフレ」を目指すFRB議長証言と「1人負け」日経平均株価の行方 後編

2021年8月3日 16:40

 実は、日本の株式市場が世界の株式市場に出遅れている理由は明確であり、単純に、日本銀行のテーパリングが粛々と始まっているだけと捉えてよいだろう。アベノミクス以降、日本銀行は湯水のように市場に資金をバラまいて来たが、「年2%の物価上昇率」という目標にこだわりすぎた結果、テーパリングの議論が成されぬまま、コロナ禍を迎えてしまった。

【前回は】「良いインフレ」を目指すFRB議長証言と「1人負け」日経平均株価の行方 中編

 もちろん、コロナ禍においても追加の緩和措置をする余地などは無く、ただ「緩和措置の継続」をすることしかできなかった。結果として、間接的ではあるものの、ETF(上場投資信託)を購入して株価を底支えしてきた日本銀行は、今や時価45兆円を保有する日本株最大の株主となったのである。

 これ以上、株価を支え続けるわけにはいかず、2021年3月には、年間6兆円としていたETFの購入目安を削除した。そして5月には、異次元緩和以降で初めて、ETFの購入価格が実質的にゼロとなった。それ以降も、日本銀行による積極的なETFの購入はない。

 ともあれば、2021年2月頃から明確になっている日本と世界の株式市場の乖離については、日本銀行の下支えが無くなったというだけであり、「ごく順当に」株価が右肩下がりに落ちているというだけではなかろうか。少子高齢化に歯止めが効かず、デジタル化や脱炭素にも遅れ、インバウンドで外貨を稼ぐこともできなくなった日本経済に対して、買い材料は乏しい。

 最後に、直近の日本の株式市場については、非常に重要な局面を迎えていることをお伝えしておきたい。2021年2月の直近最高値以降、右肩下がりに上限変動を繰り返している日経平均株価であるが、その株価は8月3日時点では、27,500円付近でもみ合っている。

 すでに投資家心理に影響しやすい200日線を割り込んでいる状態であるが、次の抵抗線はここ1年間における抵抗ラインである27,000円付近であろう。27,000円を割り込むようであれば、下落スピードが加速する可能性があるので注意されたい。

 また、日本銀行が保有しているETFの売却については、日経平均株価が20,000円を割り込むと評価益がマイナスになるという。つまり、そこまでは日本銀行もある程度は下落の許容をし、テーパリングのために、ETF購入を見送る可能性も十分に考えられる。

 さらに、日本銀行は過去において(2002年頃と2009年頃)、金融安定を目的に個別株を銀行から購入しており、その保有株を今年に入ってから売却しているという動向も見られているようだ。いずれにせよ、日本銀行の下支えが無くなった今、日本の株式市場が世界の株式市場に追いつくのは難しいのではなかろうか。今後の日本銀行の動向には十分に注目していきたい。(記事:小林弘卓・記事一覧を見る

関連記事

最新記事