トロヤ群の小惑星存在領域で捉えられた非常に珍しい彗星 NASA
2021年3月3日 16:36
NASAが、非常に珍しい彗星に関するニュースを発表している。それはトロヤ群に属する小惑星が存在する領域において、長さ65万km6にも及ぶ尾を引いた彗星が滞留している姿が捉えられたというものだ。この彗星に関する研究論文は、2月11日にアストロノミカルジャーナルに公表されている。
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月までの距離が38万kmであることから、この彗星の尾の長さがかなりのものであることは容易に想像がつく。発見されたのは2019年6月初旬、ハワイ大学の小惑星地球衝突最終警報システム(ATLAS)の望遠鏡によってである。2020年1月までハッブル宇宙望遠鏡により観測が続けられ、それ以降スピッツァー宇宙望遠鏡へと観測リレーが続けられてきた。
ところでトロヤ群とは、木星のラグランジュ点付近に存在する小惑星群で、木星の公転軌道上、木星の前後60度あたりの位置に密集しているものである。ラグランジュ点とは、天体力学における三体問題の平衡解であり、太陽、木星、小惑星を対象とした三体問題では、太陽と木星の位置を特定した場合に小惑星が安定して存在できる位置を示すものだ。その場所が、木星の前後60度あたりの宇宙空間になる。
今回発見された彗星が珍しい理由は、彗星は通常、太陽に接近する楕円軌道上を周回するものだからで、木星の近くを周回している彗星など、これまで全く発見されたことがなかったからである。
ただし、この彗星が最初からトロヤ群に属していたとは考えにくく、おそらく他の彗星と同様に太陽系のはるか外縁部で誕生し、太陽に接近する楕円軌道を移動中に木星の引力に捉えられ、トロヤ群の小惑星たちとともに行動することになったものと考えられる。
最新の数値解析シミュレーションによれば、この彗星は2年以内に木星へ非常に接近した後、太陽に向かって再び移動を始めるだろうと考えられている。つまりこの彗星は、木星付近でつかの間の休息をとっているのである。
数年以内には太陽に接近して大彗星に成長するのかもしれない。そうなれば、百武彗星やヘールボップ彗星以来の雄姿が見られるのではと期待するのは、いささか早計だろうか。(記事:cedar3・記事一覧を見る)