ロビンフッドは民衆の敵か味方か ゲームストップ株価乱高下から学ぶこと 前編
2021年2月8日 08:15
ロビンフッドとは、中世イングランドにおける伝説上の義賊である。富裕な貴族などから物品を盗み、それを貧しい者に与えるというシナリオは、日本における石川五右衛門と同じだ。前回取り上げた、アメリカ株式市場におけるゲームストップ社の株価暴騰(仕手戦)は、SNSの普及だけではなく、フィンテックで作られた現代版ロビンフッド無くして、到底成しえることはできなかっただろう。
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ロビンフッド・ファイナンシャルは、米シリコンバレーに本拠地を置くスマホ専用証券会社であり、利用者は「ロビンフッド」というアプリ上で売買取引やポジションの確認を行っている。
コロナ禍という巣ごもり生活の中で、投資へチャレンジする人も多く、このロビンフッドアプリも例外なく利用者数を増やした。しかも、利用者数だけではなく取引高も増やしたのが特徴で、今や競合する証券会社と肩を並べるほどにまで成長してきたのである。なぜであろうか。
ロビンフッドアプリの画面構成は、投資初心者でも受け入れやすいように情報が限定されており、一般的な証券会社がごく当たり前に設けているような、細かいテクニカル設定や最新ニュースなどの情報が並べられていない。一方で、ゲームライクな演出も盛り込まれているため、初心者がすんなりと投資の世界に入ることを可能としたことも理由の1つであろう。
ただし、ロビンフッド急成長の理由はこれらの画面構成だけではなく、「売買手数料無料」と「最低預入残高撤廃」、「最低取引単位なし」というウォール街という金融業界の壁をいち早く突破したところにある。特に「最低預入残高」については、日本国内では設けられないことが一般的だが、アメリカでは1,000ドルなど、証券会社によっては一定の金額を預けなければならない。
また、「最低取引単位なし」については、購入したい企業の株価(1単元)が高く、資金が足りない場合にその一部のみを購入することができるようになる仕組みで、日本のミニ株制度がさらに柔軟性を増したと考えればよい。ミニ株については、1単元が100株である場合に10株のみ購入を可能とする仕組みだが、ロビンフッドではさらに細かい設定が可能であり、実質的には希望する金額分のみの株式を購入できると考えてよいだろう。
このようにして、実店舗や人件費などのコストカットの極みともいえるスマホ専用証券会社が、フィンテックによって生まれたわけであるが、投資へ参加するためのハードルを下げたという意味では、ロビンフッドはまさしく救世主なのである。(記事:小林弘卓・記事一覧を見る)