オリンパスが「医療用機器」深耕で歩を止めようとしない背景
2020年12月16日 17:11
2月7日・8日の企業産業欄に『オリンパスの挑戦:上・下』を投稿した。上は、1990年代に米国で開発された手術支援ロボット:ダビンチが特許切れとなる。循環器系内視鏡で世界の約7割を占めるオリンパスとしては、「創業100周年を迎えたタイミングでもあり、内視鏡技術を活かした新手術用ロボット開発では後塵を拝すわけにはいかない」という内容。
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下は、「至る2023年3月期の総売上高営業利益率20%の目標は達成可能か」というもの。医療機器で世界最大手:メドトロニックの19年4月期の営業利益率21%に対し、オリンパスの19年3月期は10%水準にとどまっていたからである。
果たしてオリンパスは記した課題をクリアしえるのだろうか。答えは、時間の経過を待つしかない。だが医療機器メーカーとしての居所を高めるために、諸々の手が打たれているのは事実である。
例えば4日、『呼吸器インターベンション(気管支鏡を使った診断・治療)の医療機器メーカー、米Veran Medical Technologies(VMT社)の買収契約を締結』とするニュースリリースを配信した。
オリンパスは19年11月に経営戦略の一環として「治療機器事業への注力と拡大」を掲げ、具体的に「消化器科、泌尿器科、呼吸器科」の3分野とした。それをグローバルに展開する意味もあり、米国の地域統括会社:OCAを設立。今回のVWT社買収も、その成果といえる。
周知の通り、肺がんは癌の中でも羅漢率・死亡率で世界1の疾患。が、昨今では低被ばく線量のCT検査(通常のCTに比べ約10分の1の被ばく線量)の普及・拡大により、肺野部(気管支末梢領域)の病気が発見される可能性が高まっている。
言い換えれば病変部の組織や細胞を採取し確定診断を行うため、気管支鏡検査が増えることになる。オリンパスはそれがVWT社買収の価値と位置付けている。OCAのCEO兼オリンパスCOOのナチョ・アビアは、こう語っている。
「VWT社の買収は、オリンパス(が持つ技術)と双方の強みを補完し合うものだ。シナジー効果で呼吸器事業の更なる成長、治療機器拡大につながると確信している。とりわけVWT社の電磁ナビゲーションシステム(気管支の抹消部分へのスムーズな到達をサポートする)は、今後の製品ポートフォリオの拡充で魅力的だと捉えている」
買収金額は3億4000万ドルが想定されているが、友好的な買収といえる。VWT社のCEOは「100年の歴史を持ち、世界的に高品質の定評があるオリンパスの一員となることを喜んでいる」としている。
医療機器の世界は、歩みを止めたら敗者ということのようである。(記事:千葉明・記事一覧を見る)