クリスパーキャス9によるゲノム編集を安全に実現する手法確立 広島大

2020年10月30日 15:57

 広島大学と東京医科歯科大学の研究グループは26日、細胞分裂で生じた細胞が母細胞となり、再び細胞分裂するまでの細胞周期のメカニズムを生かし、クリスパーキャス9によるゲノム編集を安全かつ正確に行う技術を確立したと発表した。

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 これにより、ゲノム編集で、狙った塩基配列以外を編集してしまう「オフターゲット」作用が抑制され、相同組み換えの頻繁な発生により、正確に変異が導入された割合が大幅に増えたという。研究チームは、今回開発した技術の実証を進め、今後利用を見込むゲノム編集が、幅広く適用可能な技術の確立を目指す。

 特定の遺伝子のみを切ったり、つなげたりするゲノム編集は、自然環境の変化をはじめとした脅威に強い品種を開発できる技術として、研究が進んでいる。研究が進む中で誕生したのが、細胞、古細菌に存在する自然界の獲得性免疫システムから転用して開発された「クリスパーキャス」である。

 日本発祥のクリスパーキャス3など、様々な技術が世に出ているが、最も評価が高いのがクリスパーキャス9だ。狙ったDNAを切断し、遺伝子を固定したり、別の遺伝子情報を挿入したりする能力を持つ。実用性と革新性の高さから、開発者のエマニュエル・シェルパンティ博士とジェニファー・ダウドナ博士は、2020年のノーベル化学賞を受賞している。

 とはいえ、クリスパーキャス9にも課題がない訳ではない。DNAの塩基配列がよく似た部位(相同部位)で発生する相同組み換えの効率が低く、オフターゲットの発生リスクを常に抱えている。

 そうした中、研究の進展を促そうと立ち上がったのが、広島大医学系研究科の松本大亮助教らの研究チームである。同大は、所属する研究者が、米科学誌「ネイチャー・バイオテクノロジー」の論文本数ランキングで世界2位と5位にランクインするなど、ゲノム編集の研究に強みを持っており、研究チームはこれまで蓄積した知見を生かし、新たな仕組み確立に挑むことにした。

 研究チームは、細胞周期に依存して発現量が増減するタンパク質をゲノム編集に応用。その結果、クリスパーキャス9に対して阻害作用を持つタンパク質・アンチクリスパーと呼ばれる分子と、細胞周期に応答して発現量が変化するCdt1という分子をつなげることに成功し、細胞周期に応じてクリスパーキャス9の活性が調節される仕組み構築を可能にした。

 この新たな仕組みでは、相同組み換えが起こりやすいS期とG2期におけるクリスパーキャス9の活性化が促され、正確に変異が導入される細胞を得られる割合が、最高で5倍程度向上。オフターゲットも最大で90%程度低減されたという。

 研究チームによると、「相同組み換えの改善とオフターゲットの抑制という2つの効果が得られる技術が報告された例はない」という。研究成果は、オープンアクセスの科学雑誌「コミュニケーション・バイオロジー」のオンライン版に掲載されている。(記事:小村海・記事一覧を見る

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