NASAの成層圏赤外線天文台、月面で太陽光に照らされた水分子を発見
2020年10月28日 11:32
イギリスのネイチャーアストロノミー誌で10月26日、月面で初めて観測された水分子の存在に関する論文が公表された。これはNASAの成層圏赤外線天文台(SOFIA)により、太陽光に照らされた月面の反射光を詳細に分析した結果得られたもので、6ミクロン付近の波長のピークが、水分子が太陽光を反射している証拠として示された。
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SOFIAは、NASAとドイツ航空宇宙センター(DLR)の共同プロジェクトによる飛行天文台。ボーイング747-SPに赤外線観測用の2.5m反射望遠鏡を搭載し、高度約12kmの成層圏で観測を行っており、飛行機の特徴を生かして地球上のあらゆる地点での活動が可能である。
今回の研究では、月の南半球にある直径約225kmにも及ぶ最大級のクレーターであるクラビウスで、1立方メートル当たり約350mlの量に相当する水分子が存在していることが突き止められている。
従来、月表面に何らかの形で水素が存在していることはわかっていたが、それが水に起因するものなのか、水酸化物OHに起因するものなのか、はっきりと識別することが困難であった。今回の研究では、波長が6ミクロン付近の月面の太陽反射光を分析し、そのデータを隕石やMORBガラスでの観測結果と比較することによって、月に存在している水素が水分子によるものであることが明らかにされた。
MORBガラスは地球に存在している鉱物で、中央海嶺玄武岩の略称であり、マグマの1種である。また揮発性元素(H2O,CO2, Cl, S)を含有しており、MORBガラスの太陽反射光には水分子の痕跡となる波長が検出される。
月面のような大気のない世界では、水はもし仮に存在したとしても、やがて宇宙空間へと拡散していくため、長い時間的なスパンで見れば実質的には維持できないものと考えられてきた。だが、太陽風にさらされた結果、月面では水素が常に供給されることによって、水酸化物が生成され、それが隕石の衝突などによる放射線によって水分子に変化するものと現在では考えられている。
今回検出された月面での水の量は、サハラ砂漠に存在している水の量の100分の1にすぎないが、月面で長期間人間が滞在するための貴重な水源としての期待もかかってくる。ただし、これを簡単な方法で取り出し、活用できるかどうかまではまだ明らかにはなっていない。(記事:cedar3・記事一覧を見る)