平静を装う市場 テカムセの呪いとトランプ大統領のラストチャンス 後編

2020年10月4日 20:29

 ポピュリストが敵視する既存のエリート層の中には、知識人や専門家が含まれる。たしかに、アメリカ感染症研究所所長のアンソニー・ファウチ博士とトランプ大統領は未だに足並みが揃っていない。

【前回は】平静を装う市場 テカムセの呪いとトランプ大統領のラストチャンス 前編

 もっとも、ポピュリストと言われる彼らであっても、内閣に女性や非白人を多く登用したイギリスのジョンソン首相のように、過去の新型コロナウイルス対策を自省し、マスクの義務化を決定した指導者もいる。しかし、そんな真っ当に思えるジョンソン首相の支持率は、ここに来て低迷している。

 新型コロナウイルスに罹患していた当時は7割近くにまで上がった支持率は、退院後から落ち続け、7月には4割前後にまで低下した。一方で、ボルソナロ大統領は自宅待機終了後の8月には支持率を4割近くに延ばし、過去最高値となったのである。

 両者の違いは、国民の考え方、とりわけその支持者の考え方が強く反映された結果であるとすれば、理解し難くはない。新型コロナウイルスがアジア圏の移民からもたらされた害悪だとすれば、回復は支持者にとって害悪の克服であり、勝者である。

 元はといえば、イギリスのEU離脱も反移民が発端だ。新型コロナウイルス罹患後に対策を方向転換したジョンソン首相と、罹患後も強気な主張を変わらず繰り返しているボルソナロ大統領とを比べれば、支持率の説明がつく。そして、大統領選まで残り1カ月を切ったトランプ大統領についても同じことがいえよう。

 選挙戦の決定打にもなりうるトランプ大統領のコロナ罹患は、マスク着用やソーシャルディスタンスを説くバイデン氏の主張を暗に正当化することになった。しかし、トランプ大統領が早期に回復し、選挙前にもう一度民衆の前に立つことができれば、選挙に逆転勝利する可能性も十分に出てくる。結果的に、容態が「軽度」であり「念のための入院」という報道が株価の戻りにつながったのは事実だ。

 さて、コロナウイルスショック後の株価の戻りは、過去に見ない大規模な財政出動を拠り所とするものであるが、バイデン大統領が誕生すれば、富裕層への増税や法人税増税、GAFA解体など、株式市場にとってはネガティブな材料が多いことには間違いない。また経済へのダメージが深い、行動制限にも踏み込む可能性も出てくる。

 もちろん、新型コロナウイルスが蔓延する渦中において、バイデン氏が大統領就任後ただちに規制強化を始めないという見方もあるが、公約は公約である。どちらかといえば4年前の世論調査の反省から、バイデン氏優勢が確実なものとまで言い切れないという見方が、株価を下支えしているのではなかろうか。

 トランプ大統領は「テムカセの呪い」再来を自ら防ぎ、強い大統領をアピールできるか。大統領の容態に伴う株価の急な変動については特に注意すべきだろう。(記事:小林弘卓・記事一覧を見る

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